毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

200年単位で見るアメリカ、という視点~民主主義と資本主義の交差する所

アメリカン・ドリームという悪夢―建国神話の偽善と二つの原罪

 藤永茂氏は1926年生まれの量子化学の研究者。本書は2010年の出版、はじめにより、「世界史の視点から、2世紀前に始まった「アメリカ」という試みそのものが一つの巨大な間違いではなかったどうかを問うているのである。」

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英国植民地時代のアメリカ(1650~1780年)

1650年から1780年の期間にアメリカの植民地に流入した白人移民の総数は約60万人、そのうち40万人が白人罪人や白人年期奉公人という事実上の奴隷労働者たちであった。・・・初期の窮状を抜け出し、タバコや綿花の大規模栽培に大きな将来が開けた時、植民地指導者が最も緊急に求めたのは大農園経営のための奴隷的労働力であった。(103ページ)・・・シンボリックに言えば英国で多数の貧民浮浪者を生み出した「囲い込み」は北米植民地に引き継がれ、それはまた、独立後のアメリカ合州国にも受け継がれていった。(109ページ)

独立宣言当時のアメリカ

連邦憲法の下での初代大統領ワシントン(1789年)から第五代モンロー(1825年)までの36年の治世のうち、ジェファソンが副大統領であった第2代ジョン・アダムスの四年間を除く32年間を四人のヴァージニア人大農園「貴族」大統領が支配したのだ。・・・(例外の)アダムスはボストンの豪商の出身。彼らアメリカ創設の父祖たちが英国からの独立を求めた最大の理由は、英国が彼らに課した税金を払いたくなかったことである。・・・建国後三十数年間のアメリカは、ほとんど富裕層階級寡頭政治(プルトクラティックオリガーチィ)と呼んでもよい。(227ページ)

建国以来のアメリカ政治体制を観る

21世紀初頭の現時点で、我々一般の日本人がアメリカという国の政治形態の実態をイメージする場合、まず「アメリカ合州国は民主主義ではない」という認識から出発すると万事がはっきりする。次に、アメリカ合州国は建国以来、下層民を除外した共和主義体制を目指したのであって、民主主義の完全な実現を求めてはいないことを把握するとよい。(225ページ)

 

アメリカを認識する違った視点

 藤永氏の描くアメリカも一つのアメリカである。藤永氏のアメリカは、我々が「民主主義、資本主義、アメリカン・ドリームという言葉から想像する」アメリカとは違う。英国の植民地時代のアメリカ、英国から独立した当時のアメリカ、当時と今、長い時間軸で観た時、よりリアルにアメリカを、そして世界を認識できると考える。

蛇足

世界は複数のレイヤーが重なっている。