毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

米国サンディ・スプリング市を知っていますか?~コーポラティズムというすべてが株式会社化する社会

(株)貧困大国アメリカ (岩波新書)

堤氏はジャーナリスト「1% vs 99%の構図が世界に広がる中、本家本元のアメリカでは驚愕の事態が進行中。それは人々の食卓、街、政治、司法、メディア、人々の暮らしを、音もなくじわじわと蝕んでゆく。」

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左のグラフ:サンディ・スプリング市の平均年収が上昇。Wikiによれば年間世帯年収は1千万円を越える。

 

2005年のハリケーン・カトリーナから始まった

経緯は2005年8月のハリケーン・カトリーナアトランタ近郊の富裕層はハリケーンで壊滅状態の被災地復興の負担をめぐって、なぜ自分達富裕層の税金が、貧しい人たちの公共サービスに吸い取られなければいけないのか?と考えた。彼らは郡を離れ、自分達だけの自治体を作って独立しようとした。

 

2005年12月全米初の「完全民間経営自治体サンディ・スプリングス」が誕生

大手建設会社CH2Mヒル社が、2700万ドルで市の運営を請け負うオファーを持ちかけ、直ぐに両者の間に契約が成立した。

PPP(Public Private Partner)と呼ばれるこの新しい手法は、アトランタ周辺の富裕層の間で爆発的な人気を呼んだ。

サンディ・スプリングスが象徴するものは、株主至上主義が拡大する市場社会における、商品化した自治体の姿に他ならない。そこで重視されるのは効率とコストパフォーマンスによる質の高いサービスだ。そこにはもはや「公共」という概念は、存在しない。(199~203ページより抜粋)

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City of Sandy Springs - Home2014年7月3日 サンディ・スプリング市の公式サイト

サイトトップに「Every time you pay your phone bill, an E-911 fee is included to help pay for costs associated with 911 services. But is that allocation going to Sandy Springs? 」あなたが払う電話の費用には救急車の緊急コールシステムの助成費用が含まれている。この緊急コールシステムによって発生する費用はサンディ・スプリング市以外の比率が高い=余計に負担してる。

ドル紙幣のイラストといい、サンディ・スプリング市の考え方をよく表現している。

 

コーポラティズムという概念

いま世界で進行している出来事は、単なる新自由主義社会主義を超えた、ポスト資本主義の新しい枠組み、「コーポラティズム」(政治と企業の癒着主義)にほかならない。グローバリゼーションと技術革新によって、世界中の企業は国境を越えて拡大するようになった。巨大化して法の縛りが邪魔になった多国籍企業は、やがて効率化と拝金主義を公共に持ち込み、国民の税金である公的予算を民間企業に移譲する新しい形態へと進化した。

コーポラティズムの最大の特徴は、国民の主権が軍事力や暴力ではなく、不適切な形で政治と癒着した企業群によって、合法的に奪われることだろう。

(富裕層である)「1%」にとって、国家は市場の一つにすぎず、国単位で対抗できないという事実に気付かなければ、ナショナリズムイデオロギー、宗教やささいな意見の違いなどに煽られて(富裕層ではない)「99%」は簡単に分断されてしまう。(277ページ)

国を頼らない「1%」、国に頼る事のできない「99%」、サンディ・スプリングスが象徴

資本主義は世界経済の構造を先進諸国と発展途上国という構造を作ってきた。世界に未開拓の市場が無い中で成長する方法として選択したのが99%を対象とする収奪型のビジネス。この文脈で貧困層を対象とするサブプライムローン問題を解釈すべきだったと今更に気付く。サンディ・スプリングスはこの構造から利益を優先的に受ける人々が固まった所。ここサンディ・スプリングスの1%の人達にとって、国という機能は生活の上で必要とされていない事に気付く。米国では既に公共サービスといえども市場化したコーポラティズムの世界が始まっている。す

蛇足

ポスト資本主義に活きているという自覚、我々はここからスタートできる。