毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

私は貨幣を介さずに、誰に何を贈与できるか?~お土産を買う意味がよく分かる。

贈与論 (ちくま学芸文庫)モースはフランスの社会学の研究家、原書は1925年の出版。「贈与交換のシステムが、「全体的社会的事象」であるという画期的な概念を提唱した。

ポトラッチ、北米の先住民族によって行われた贈与のシステム(Wiki

ポトラッチは太平洋岸北西部先住民族の重要な固有文化で、裕福な家族や部族の指導者が家に客を迎えて舞踊や歌唱が付随した祝宴でもてなし、富を再分配するのが目的とされる。ポトラッチは子供の誕生や命名式、成人の儀式、結婚式、葬式、死者の追悼などの機会に催された。太平洋岸北西部先住民族の社会では、一族の地位は所有する財産の規模ではなく、ポトラッチで贈与される財産の規模によって高まった。

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ポトラッチは必ずされなければならない。ポトラッチ - Wikipedia

 

モースはポトラッチを極端な贈与の形体として注目

ポトラッチは部族間で行われる極端な贈与の形体であるが、ここに貨幣経済に至る前の贈与の性格が如実に現れているとモースは考える。具体的には、ポトラッチには3つの義務(1033ページ)贈与する義務、贈与を受ける義務、返礼をする義務、が社会的に認知されている。またポトラッチは「物の力」(110ページ)、すなわち物の循環によって行われる。これは物が持つ精神性、継続性が付随するという事である。

モースはその分析を個人間の贈与にも展開

贈与・交換の原則は「部族全体にわたるポトラッチ」の段階を越えてはいるが、純粋に個人的な契約、つまり貨幣が循環する市場、本来の意味での売買、とくに計算され、名前のついた貨幣で評価される価格の観念には達していなかった社会の原則であると考えてもよいだろう。(115ページ)

キーワードは貨幣経済、交換スピードは著しく上昇したが、、、、

貨幣経済は交換効率を上昇させる事が可能であるが、「贈与の義務」、「物の力」貨幣を介精神性を切り離した。私の理解では貨幣経済による売買は義務ではなく拒絶してもいい。つまりは一方にとって著しく不利な売買であってもそれは成立した以上は何ら問題がない。貨幣での取引は一度毎に終了する、そこには精神性、例えば物語を共有するといった事は排除される。

それでも人は精神性を求める

つい最近,我々の西洋社会は人間を「経済動物」にしてしまった。しかし、今の所我々のすべてはこうした存在になっている訳ではない。大衆においてもエリートにおいても、一般的に行われているのは純粋で非合理的な消費である。それは我々の貴族階級の残存の特徴である。(279ページ)

非合理的な消費は贈与により実現できる

モースは「功利以外を最終目標とする欲求」と表現する。それは精神性、あるいはストーリーを求めるという事であろう。贈与により経済的な利益の拡大と同時に、精神性の共有ができる。「社会功利の観点から贈与は要請されている。」というのがモースの結論。アジアの人々が日本に旅行して知人に沢山お土産を買い込むのが理解できる。日本も昔はもっとその習慣があった。

 

蛇足

私は貨幣を介さずに、誰に何を贈与できるか?