毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

「フェルメール」の宗教画にみるビジネス戦略~「フェルメールになれなかった男」より

フェルメールになれなかった男: 20世紀最大の贋作事件 (ちくま文庫)

 

フランク・ウィン氏はアイルランド出身のジャーナリスト。「秀れた才能を持ち、将来を嘱望された画家は、なぜ贋作作りに手を染めることになったのか。第二次大戦終結直後のオランダで、ナチの元帥ゲーリング所蔵の「フェルメールの絵画」に端を発して明らかとなった一大スキャンダル事件に取材。」

 

本書の主人公ハン・ファン・メーヘレン1889年-1947年)

 

オランダの画家、画商。20世紀で最も独創的・巧妙な贋作者の1人であると考えられている。特に、ヨハネス・フェルメールの贋作を制作したことで有名。(Wiki

 

後に告発者に告げたように、彼は「完璧な十七世紀の作品を描いて、自分の芸術家としての価値を証明しょうと心に決めた」のだ。それは飛び抜けて気の利いた判断だった。20世紀という時代は、彼自身の作品には全く興味を示さなかった。(中略)ちょっと生まれるのが遅くて、シュルレアリズムと抽象主義の時代に写実を看板にするのだから、自分はたった一つの選択肢、贋作者になるしかない、と彼は悟ったのだ。(126ページ)

 

何世紀にも渡る既成の知恵をひっくり返し、世間の人々にフェルメール作品を考え直させ、一方で、彼をこっそりと西洋芸術の大画家の仲間の一人とさせるような作品を作りたい。(166ページ)

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本書口絵の解説:ハンの最高傑作。全くフェルメール的ではないが、フェルメール天文学者を思わせるものが確かにある。

 

ハンが選んだのはフェルメールの宗教画~そのロジックとテクニック、プロセス

 

フェルメールは一度忘れ去られながら、オランダ黄金時代の最高の画家として20世紀に入り再度脚光を浴びている。未だ発見・研究が不十分で、残っている作品が少ない。

 

フェルメールは風景画、人物画は描いているが、描いていない宗教画にフォーカス

 

フェルメール作品と似ていないが、色彩、構図、人物の表情など評論家が気づくディテールの類似点を絵に潜めこんだ

 

・絵の表面にフェノール樹脂を塗り、炉で一定時間加熱するというテクニックを開発(アルコールで絵の表面を塗布、最近塗った絵具か否かの真贋判定をパスさせる為)

 

・画材、絵具などを17世紀当時のものを使用

 

フェルメール批評家の第一人者に対し真贋判定を、「道徳的に誠実な」弁護士を経由してアプローチ

 

ハンはサインを入れなかった

 

署名は簡単に偽造できる。だから署名では専門家を説得できそうもないとわかっていいた。実際立派な署名だって疑念を誘いかねない。おそらく、とハンは考えた。署名を入れずにおくべきであろう、判断を下すのは専門家に任せたほうがずっと確かだろう。ここまでのところでは、ハンは何一つ法を犯していない。(189ページ)

 

ハンの描いた絵を本物と判定した批評家の言い訳

 

ハンの贋作は、「非常に細心の注意を払って構想されています。(批評家にとって)あなたの作品は、生きている間に真に偉大な傑作を発見するという、個人的な、ひそかな野心を満足させるものでした。」(308ページより)

 

 

ハンが創造したもの~ビジネス戦略の発想から

 

ハンは自分の写実の能力と、写真が登場し写実がもはや受け入れない時代を認識した。そして批評家が、そして市場が欲しがり、存在しないものを作った。「フェルメールの宗教画」という望んだコンセプトの商品を提供した。完璧なコンセプトに加え、技術革新を伴ったデテクニック、説得力のある来歴のストーリー、そして仲介者を使った市場へのアプローチ、これらのディテールが揃った時巨額の金が動いた。ハンはビジネス上の価値を生み出す事に成功した。ビジネス戦略として理解できる構図である。

 

蛇足

 

人は見たいものを見つける、そこに価値が生まれる。