毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

86歳のノーベル賞受賞化学者、下村氏が本当に伝えたい事~誰もがチャンスを「押しつけられている」

光る生物の話 (朝日選書)

下村脩博士が初めて入門書を書き、生物発光の特徴、研究史、化学、発光の目的、応用など、生物発光のすべてをやさしく説明する。

 

下村氏は如何に世の中を変えたか?蛍光イメージングとノーベル賞

生物発光物質の研究は蛍光イメージングとなって現在のバイオテクノロジーの研究の重要な技術となっている。特定の分子に蛍光タンパク質を付けその挙動を観察することによって細胞内で起こる生命現象を解析する「蛍光イメージング」の成立に寄与、これがノーベル賞の受賞の理由。f:id:kocho-3:20140416085242p:plain

本書口絵より

下村氏による生物発光物質を定義

 ルシフェリンは、「ルシフェラーゼの触媒作用により酸化されて、発行エネルギーを与える有機化合物である。発行量は反応したルシフェリン量に比例する。」「ルシフェラーゼはルシフェリンの酸化反応を触媒する酵素」。(フォトプロテインの記述は省略)34ページ

 

 ウミホタルルシフェリンの精製と結晶化

目的は構造決定に必要な純粋なルシフェリンを得る事であったが、当時は物質が純粋であることを示すには結晶化が必要だったのである。

 (当時の下村氏の指導教授であった)平田先生はこのテーマはプリンストン大学20年前から努力しているがまだ成功していないこと、さらに、このテーマは成功しないかもしれないので、学位目的の学生には与えられらないのです、とも言われた。私はこの仕事の難しさを十分理解した。

精製したルシフェリンは2日ぐらいで完全に分解してしまうので、新しく感想ウミホタルからの抽出精製を何回も繰り返して、ありとあらゆる結晶化の努力をしたが上手く行かなかった。(中略)もし不成功なら、私は多分、万年助手で生涯を終わることになると思った。それは、考えるだけでもいやな人生である。私は全身全霊で努力した。(51ページ)

 

19562月 実験開始から10カ月後に以外な方法で実現

 そして実験を始めた10カ月たった19562月の寒い日に、以外なことから突然実験に成功したのである。

 私はそこでまだ塩酸を加えたルシフェリンを放置する実験をしていなかった事に気づいた。というのはルシフェリンがアミノ酸の化合物であれば多分塩酸で分解するであろう。しかし、たとえ無意味であっても害はないから、私は(通常オーブンで加熱するがたまたま用意ができていなかったので)サンプルを加熱せずに放置することにした。

 

加水分解により針状結晶の精製に成功

結晶化は、濃塩酸中という常識では考えられない条件で起きたのであった。このルシ

 

フェリン結晶化の成功は、私の生涯で最も嬉しい瞬間であった。私は科学者に仲間入りしたのである。

 

しかし考えてみると、ルシフェリンはペプチドであり、酸で分解しやすいという常識が、結晶化を送らせていたのである。それがなければ結晶化はもっと早くできていたであろうと反省した。(57ページ)

 

 86歳の下村氏は研究者としての60年を振り返る

 「科学の根源は興味と疑問と好奇心である」という言葉の引用を、お許し願いたい。私の人生を顧みると、この言葉がよく適合しているとは思えない。私は子供の頃、化学にはなんの興味もなかった。私が化学者になったのは、長崎の原爆に押しつけられたようなものである。私はさらに平田先生に、ウミホタルルシフェリンの結晶化という難題を押しつけられた。しかし、それが成功したときには、私は化学に強い興味をもち、一生生物発光の化学を研究したいと思った、嫌いなことでも、やっている間に好きになり、興味と疑問や好奇心が沸きだしてきたのである。(196ページ)

 

本書の動機、「「興味と疑問と好奇心」の本質を伝える事

私の一番の望みは、できるだけ多くの高校生に読んでもらうことである。本書の冒頭に書いたが「科学の根源は興味と疑問と好奇心である。」若い高校生が生物発光に「疑問と好奇心」をもってくれ、そのなかの一人か二人がブレークスルーできる研究者になってくれれば、生物発光の化学的な研究のみならず、科学の発展に貢献するはずであり、そうなれば私にとって望外の喜びである。(191ページ)

 

  下村氏は本書一行目に「科人類は光るものに対して古くから強い好奇心を持っていた。」と言って始める。しかし下村氏は「興味と疑問と好奇心」を「人から押しつけられた」と表現した。氏はそれを自分の喜びに転化できた時に「興味と疑問と好奇心」が本質になりそれが「ノーベル賞への道のり」のスタートである事がわかる。下村氏はこの本質を託そうとしている。

 蛇足

 人間の根源は興味と疑問と好奇心、そしてチャンスは皆が等しく「押しつけられる」