毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

お金は幻想である、その明確な証拠~400年前のニュートンが「証明」している

ニュートンと贋金づくり―天才科学者が追った世紀の大犯罪

レヴェンソン氏は米国のサイエンスライター

万有引力を発見し、近代物理学に巨大な足跡を残した天才科学者ニュートン
後年は王立造幣局に長官として迎えられ、イギリスの貨幣政策に多大な貢献をしたことが知られていますが、、、。」

当時のイングランドの財政状況

オランダの利権を巡り、フランスとイングランドは戦争を行っており軍事費に支出により財政悪化が進行していた。更にイングランドと大陸で銀の交換比率に差があり銀が国外流出していた。更に偽造、改悪した硬貨により信用力が低下、貿易決済にも支障が出ていた。

 イングランド政府はニュートンに助言を求める

1860年代の終わりから90年代の半ばにかけては、銀貨ー日常の取引に使われる少額お硬貨ーの供給量も、年を負うごとに減っていた。「プリンキピア」の出版によって、ニュートンイングランド随一の賢者という立場を確率しており、国家の危機(通貨量の減少)に際して助言を求められるのは当然だった。(126ページ)

イングランド政府は通貨の改鋳を決定、1696年ニュートン造幣局に着任し実務を取り仕切り成功裏に完了、その後造幣局長官に就任する事になる。著者のヴェンソン氏はニュートンを神の栄光を讃える為に「すりつぶす、混合する、注ぎ入れる、加熱する、冷却する、発酵させる、蒸留するといった一連の退屈な作業も、その他の技術を要する作業もすべて自分でこなす」(102ページ)錬金術師だったと表現する。万有引力を論理化する抽象的思考能力と、実務能力を併せ持つ自然哲学者だった。

イングランドの当時の状況を前提に1694年イングランド銀行設立を考える

銀行は非常にシンプルなサービスを提供することになった。富裕層から出資金を募って銀行の資本とし、その金をーその全額をー政府に貸し出すといすサービスだ。各自の出資金の管理方法は3つあった。一つ目は、取引を記録する「台帳」あるいは「用紙」を保管する。つまり初期の預金通帳である。二つ目は、出資額を上限として資金のしはらいを受けられるという契約を書面にするー小切手の原型である。三つ目は最も重要で、出資額と同額の「手形」を保管し、銀行皮は要求に応じて、その手形と引き換えにその一部または全額について現金による払い戻しを了承する。

こうして、一枚の紙片が通貨の意味を持つようになった。そしてその意味合いは、たちまちもっと大きくなる。イングランド銀行は、出資者から預かった額と同額を政府に貸し出し、得た資本金と同額の手形を出資者に降り出した事によって、信じられないような経済の仕組みを編み出したー無から通貨を創出したのだ。(147ページ)

科学革命は抽象的な概念を広めた

紙幣、交換可能な保証書、債権、貸付金といったものは、すべて抽象的な概念だ。例えは、債権の現在価値を把握したり、政府の債務の不履行のリスクを如何に設定するかを理解するには、当時も現在も、彗星の軌道を計算する時のように、思考の数量的、数学的転換が必要だ。(214ページより再構成)

通貨は抽象的概念が明確

イングランド銀行への出資金は政府の軍事支出として使われてしまう。一方イングランド銀行に出資した人は手形が手元にあり、これを転売すれば別の物に投資できる。その上で利息が入ってくる。この仕組みは現在の金融論では信用創造メカニズムと呼ばれている。イングランド銀行の手形が抽象的概念である事は明白である。

初めての物にはその本質がシンプルに表現される。どうしてニュートン造幣局で改鋳を指揮していた、その社会情勢を理解する事で本質が見えてくる。時間の経過により、そして読者が直接的な利害関係を持たない故に、不必要な感情が伴わない。だからこそその本質が痛感できる。通貨は抽象的概念である。

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1ポンド紙幣

蛇足

抽象的概念は幻想でもある。