毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

思考は空間を生み出す、 思考による都市レイヤー

 独立国家のつくりかた (講談社現代新書)

坂口氏は建築探検家(!)本書のタイトルは坂口氏の思考の大きさとは別に、読み手に矮小したイメージを連想させてしまうと思う。坂口氏は大学で建築を選考、モバイルハウスを探検してきた。「都市のホームレスがどうやって澄んでいるか、」という説明を付けるとこの時点で読み手を限定してしまう。坂口氏は都市は一つの機能にすぎず、違う概念で捉えれば都市は全く違った機能を提供できる、という事である。氏はそれをレイヤーという言葉で説明する。

それを僕は「一つ屋根の下の都市」となずけた。家だけが居住空間なのではなく、彼が毎日を過ごす都市空間のすべてが、彼の頭の中でだけは大きな家なのだと。同じモノを見ていても、視点の角度を変えるだけでまったく別の意味を持つようになる。彼の家、生活の仕方、都市の捉え方には無数のレイヤー(層)が存在しているのだ。(25ページ)

思考は空間を生み出す

彼とは路上生活者の事、この論理の構造を明確にするために置き換えてみる。「地球だけが居住空間なのではなく、彼が毎日を過ごす宇宙空間のすべてが、彼の頭の中でだけは大きな居住空間なのだと。」人類は観測技術の拡大と思考能力により宇宙を拡大してきた。ある意味この文章は路上生活者の事ではなく、思考により空間を広げていく、という事と同じ意味だと思う。思考する人間の数だけレイヤーが存在し、「レイヤーを使う事によって空間がどんどん増えていく」のである。

思考による都市レイヤー形成

本書のタイトルは「独立国家のつくりかた」、既に日本という国もレイヤーの一つに過ぎない事を感じさせる。本書は路上生活者の話でもなく、ミニ地域国家や道州制という制度論ではない。各人の思考が個別のレイヤーを形成し、レイヤーの間では貨幣経済を超えた評価体系により経済体系が維持されるのが本来の姿である、という主張である。都市の本質が物理的・空間的存在ではなく、ある機能上の存在に過ぎないとすれば「頭の中に都市をつくる」事に何の違和感も存在しない。