毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

金融業が儲かっていいのか?~『 金融に未来はあるか』ジョン・ケイ氏(2017)

 金融に未来はあるか―――ウォール街、シティが認めたくなかった意外な真実

 ケイ氏はイギリスのエコノミスト、我々は金融とどうやって付き合っていけばいいか?(2017)

かつての銀行の支店長

(1960年代イギリスでは銀行に入って)そこそこ真面目に勤めれば、20年かそこいらで支店長になれるかもしれない。支店長といえば地域社会の名士だし、ゴルフクラブロータリークラブの昼食会で社交するのも仕事のうちだ。会計士や弁護士、医者、聖職者、そして羽振りのいい商人など、地元の知的職業人のことなら個人的にもよく知っている。銀行の支店長は彼らから預金を受け入れ、時には融資だって行う。・・・たいていのことは支店長による人柄の品定めに任せられてた。(21ページ)

過去40年間の西側経済の金融化

今日の金融界を支配するのはトレーディングであり、トレーディングが収益と報酬の柱となっている。(29ページ)

 支店長不在の時代

過去30年で投資銀行の世界は、ゴルフの打ち上げで顧客をうまく接待できるような連中が中心だった世界から、デリバティブ証券の価格設定に絡む、難解きわまりない数学問題を解くのが得意な面々が支配する世界へと変容を遂げた」。(投資銀行出身、財務長官経験の)サマーズはこうした変化にについて、明らかに肯定的語っている。

金融危機で明確になったこと

簡略性、モジュラリティ、冗長性というのは、2008年の金融システムがどれひとつとして備えていなかった特徴だ。それどころか、金融化によって複雑性、相互作用、相互依存性がぐんと高まっていた。・・・頑健なシステムというのは普通、直線的だ。・・・仲介業者が業者同士ではなく、エンドユーザーと取引する姿となる。資本配分の仲介業者は通常、借り手か貸し手のニーズ、あるいはその両方に通じていることを基本原則とすべきだ。(308ページ)

現代の金融の本当の姿

金融の使い手でなく、金融市場参加者のニーズに合わせて設計された金融システムの縮図なのである。・・・(個人が)高いリターンを得たいなら確実にリスクを最低限に抑えられる最良の方法は、手数料その他の料金を、なるべく金融業界に支払わないようにすることだ。(282ページ)

 

金融に未来はあるか?

かつて銀行の支店長は町の名士だった。地域の人々と長い人間関係を築き、彼らに融資をした。その対極がトレーディング、である。貸し手と借り手の間に金融機関が何社も介在しかつ金融機関同士で売買を繰り返す。そこでは人間関係は存在せず短期的な取引でしかない。結果として資本配分は借り手・貸し手のニーズではなく、自分たち=金融業者の儲け、のためにワークする様になる。

著者のケイ氏は「金融業界に手数料をなるべく払うな」という。統計的にみて高い手数料を正当化できるだけのリターンを上げていない、という。豪華な本社ビル、美しい応接室、綺麗なパンフレット、そして高給を取る役員、これらのものがすべて手数料に跳ね返っている。金融とは本来借り手と貸し手をなるべく短距離=低いコストで結びつけるもの。もしかしたら昔の銀行の支店長はこれをやっていたのかもしれない。金融とは本来時間がかかり、儲からないビジネスなのである。

蛇足

トレーディングの本質、売買するから価格が上がる(ように見える)

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