そもそも世界秩序は安定しないもの~『 リヴァイアサン』長尾龍一氏(1994)
世界の部分秩序である国家を、「主権」という、唯一神の「全能」の類比概念によって性格づける国家論は、基本的に誤った思想である。(1994)
主権国家は誤りである
世界の部分秩序である国家を、『主権』という、唯一神の『全能』の類比概念によって性格づける国家論は、基本的に誤った思想であり、また帝国の『主権国家』への分裂は、世界秩序に責任を持つ政治主体の消去をもたらした、人類史上最大の誤りではないか?(7ページ)
主権国家登場
西暦1500年という年のユーラシア大陸を見ると、西に神聖ローマ帝国、北にロシア帝国、東地中海にオスマン帝国(その東ではティムール朝が滅亡したばかりであったが)、インドにはムガール帝国、中国には明帝国が支配していた。・・・16世紀西ヨーロッパに、この帝国を解体させる癌種が生まれた。仏英蘭などの、「主権国家」と標榜する近代国家がそれである。
(宗教問題を棚上げする仕組みとして)宗教から独立した領域を承認し、それを基礎として現世に秩序を形成しようとする運動である。・・・近代「主権国家」は、このような潮流の中で、地域的に限定され、脱宗教化し、現世の秩序を保障する主体、宗教戦争・宗教内戦の克服者として登場した。(36ページ)
(ホッブスは)、国家を「地上にこれと並ぶ力のない」ものとして旧約聖書に描かれた海獣レヴェィアタン(英語読みのリヴァイアサン)と名づけ、これを「可死の神」と特色づけた。絶対者としての神を拘束する規範はない。獣は自然的衝動に生きるのみで、規範の主体とはなりえない。(4ページ)
・・・ドイツは、19世紀後半に主権国家になることに成功すると、神であり獣であるとされた「近代主権国家」の観念を文字通り信じ、それを実践した。「戦争の限定」を破壊して遂行された第一次世界大戦がその帰結である。(5ページ)
リヴァイアサン~近代国家の思想と歴史
主権国家は宗教戦争を解決するため、ウェストファリア条約によって誕生した。長尾氏は主権国家システムの最大の欠陥は世界的公共性が欠けていることと指摘する。そもそも主権国家は宗教戦争を棚上げするために構想されたもので、不可侵の主権を認める以上世界大戦も原理的に防ぎようがなかった。
それでは国際的公共性の担い手をどうやって作るか?現在の主権国家と国際機関がその役割を果たすには不十分であることは明らかである。世界連邦設立がユートピアである今日、解は見つかっていない。500年かかってできた主権国家システムをバージョンアップするには何年かかるのであろうか?
蛇足
長尾氏は警告する、「20世紀国際主義の担い手であった米国が“自国のことにのみ専念して他国を無視”する傾向をもってきた・・・」(8ページ)
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