毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

善人が良かれと思って悪行をする~『ヒトラーとトランプ 』武田 知弘氏(2017)

ヒトラーとトランプ (祥伝社新書)

20世紀最大の戦争犯罪人ヒトラーは、国民に待望されて登場した政治家で、当時のドイツには彼を迎え入れな ければならない深刻な事情がありました。(2017)

ドイツのユダヤ人移民

近代ドイツは、工業化を推し進めるに当たって、多くの労働者を必要としていた。そのため、東欧などから数多くの移民を受け入れていたのだ。特に、第一次世界大戦後、ワイマール憲法という、世界でもっとも人権的に進んだ憲法をつくってからは、移民が激増した。しかし、ドイツ経済は、第一次世界大戦後、瀕死の状態が続いていた。そのため、ドイツ国民にとっては、移民が邪魔になってきたのだ。(19ページ)

我が闘争

ヒトラーナチスが大きな力を持ちえたのは、ヒトラーが書いた『我が闘争』という本が大ベストセラーになったことが要因の一つである。・・・ヒトラーはこの本で、ユダヤ人を滅茶苦茶に中傷している。

ユダヤ人はエゴイズムのみで動く」「国家の寄生虫」「生まれついての貪欲な獣」「ドイツを腐敗させている最大の理由はユダヤの脅威」

などなどである。

現代人が読めば、「トンデモ本」にさえならないような悪い冗談めいた内容だが、この当時のドイツ人はこういう思想を待望し、受け入れる土壌があったのだ。(151ページ)

悪い冗談

我が闘争』も、そういう社会の雰囲気を察して、疲弊社会に対する過剰なサービスとして執筆された面があることは、間違いないだろう。・・・しかし悪い冗談で政権を取ったナチスは、悪い冗談に束縛されていく。『我が闘争』の内容を真に受けたドイツ人たちが急激にユダヤ人迫害に傾いていき、ナチスとしてもそれに乗じるようになる。・・・ナチスは『我が闘争』という悪い冗談で政権を取り、その悪い冗談のために崩壊したともいえる。(154ページ)

 

 

ヒトラーとトランプ

武田氏はヒトラーユダヤ人政策は”悪い冗談“から始まった、と説明する。しかし”悪い冗談”の根底には社会ダ―ヴィニズムの思想がある。強い人種が生き残り、弱い人種は滅びる、という思想である。ソ連共産主義が社会的ダーウィズムへの反応の一つだとすれば、ヒトラーのナチズムももう一つの反応、であると言えるだろう。

トンデモ本の根底に流れるもの~社会的ダーウィズム

(対ソ戦の失敗後にヒトラーは)「勝利か、然らずんば敗北あるのみ・・・ドイツ民族に自己保存の覚悟がなければそれでよい。絶滅するだけだ」(42年1月27日の「食卓での談話」と語ったが、社会ダ―ヴィズムの論理からすれば、これは当然の帰結であった。(『ファシズム体制の崩壊過程』吉田輝夫P358)

 

それではヒトラーの思想を本当に“思想”として理解していたのか?ドイツ人自身が優秀でなければ生き残れない、というエリート主義をドイツ人全体が思想として共有していたのであろうか?

“悪い冗談を真に受けたドイツ人“という武田氏の表現は当時の世相の全体感を示している。一番恐ろしいことは、ヒトラーも真面目だったし、ドイツ国民も真面目だった、ということ。人間は正しいと信じて愚行を起こす。

蛇足

ナショナリズムは誰も制御できない

こちらもどうぞ

 

kocho-3.hatenablog.com

 

 

kocho-3.hatenablog.com