毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

組織に人間は必要か?~『なぜ日本企業は勝てなくなったのか: 個を活かす「分化」の組織論』太田 肇氏(2017)

 なぜ日本企業は勝てなくなったのか: 個を活かす「分化」の組織論 (新潮選書)

かつて利点だった日本企業の「まとまる力」が、いま社員一人一人の能力を引き出すことの大きな妨げとなり、組織を不活性化させている。必要なのは、まず組織や集団から個人を「引き離すこと」なのだ。(2017)

分化とは?

「分化」とは、個人が組織や集団から制度的、物理的、あるいは認識的に分別されていることであり、「未分化」とは逆に個人が組織や集団のなかに溶け込み、埋没してしまっている状態を意味する。(5ページ)

なぜ日本企業か勝てなくなったのか?

IT革命とともに経済のソフト化やグローバル化も一気に進んだ1990年代の半ば以降、わが国の労働生産性や国際競争力は世界のなかでの順位が急落し、その状態が今でも続いている。

その人的要因の一つとして、ポスト工業社会に入って人間に求められる能力や資質、モチベーションの質が大きく変化したことがあげられる。工業社会で強みを発揮した日本人の黙々として働く勤勉さや一体感、そしてある種の帰属意識やチームワークが、ポスト工業社会では通用しにくくなっているのである。(70ページ)

日本企業の特徴~画一的な平等主義

一つの企業のなかでも研究開発、企画、広報、営業、マーケティングといった部署は階層が少ないほど自由に仕事ができ、身軽に動けるので組織をフラットにしたい。一方、慎重さを重んじる法務、契約、審査のような部署はフラット化しにくい。・・・全社一律、悪しき画一的平等へのこだわりがしばしばネックになっている。そして全職種を対象として企業別に組織される企業別労働組合が、それと深く関わっている。(91ページ)

分化と統合~大切なのは機能

わが国の共同体型組織では、行動と機能を一体化させるところに特徴があった。…モノづくりにしても、事務の仕事にしても従来の集団作業においては、そのように文字どおり一丸になることが大切だったからである。・・・行動と機能を切り離せば、個人の自由を尊重しながら仲間同士の協力や連帯ができるようになる。(163ページ)

そもそも組織に人=行動は不要

(近代組織論の祖と言われる)バーナードは、組織を「意図的に調整された人間の活動や諸力の体系」と定義しており、組織に人間そのものは含まれない。・・・組織にとって人間の行動そのものを規制する必要がないことを示唆したバーナードの慧眼は敬服に値する。(165ページ)

 

なぜ日本企業は勝てなくなったのか~個を活かす分化の組織論

本書の帯には、以下のチェック項目が並ぶ。

会議が多い、朝礼がある、課長が誕生日席にいる、情意考課されている、部の目標しかない、総合職・一般職がある、帰りづらい・休みづらい、裁量労働制がない、在宅勤務ができない

これらの特徴は日本の大企業が働く人々を共同体型組織として動かしてきた時にできた分化であろう。そこでは機能と同時に行動も一体化していた。日本が大量生産型工業化社会において、西側市場へのアクセスが可能であった時期に特化した形態であり、今の時代これらが不適合を起こしているのは言うまでもない。それではなぜこの日本型共同体型組織が解体されていかないのか?著者は日本型共同体型組織の既得権益者の声が大きいからだと指摘をする。今後の環境は行動と機能が分化した組織、組織と適切な距離感を保てる組織の方が成果を上げられる方向に変化する。組織の存在理由が目標に向かって成果を上げることであるならば、組織論を議論するとき「個を活かす分化」は重要なキーワードとなろう。

蛇足

組織に必要なのは意図的に行動する目的

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