毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

そもそも失敗の存在に気づいているか?~『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』Mサイド氏(2016)

失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織

 サイド氏は英国のコラムニスト、ライター、だから人は、同じ過ちを繰り返す――。(2016)

 

医療過誤は死因の第3位

1999年、米国医学研究所は「人は誰でも間違える」と題した画期的な調査レポートを発表した。その調査によれば、アメリカでは毎年4万4千~9万8千人が、回避可能な医療過誤によって死亡しているという。

ハーバード大学のルシアン・リーブ教授が行なった包括的調査では、さらにその数が増える。アメリカ国内だけで、毎年100万人が医療過誤による健康被害を受け、12万人が死亡しているというのだ。・・・「回避可能な医療過誤」は、「心疾患」「がん」に次ぐ、アメリカの三大死因の第3位に浮上する。(20ページ)

アメリカ国内で実施された、医原性損傷(診断・処置のミスによって起こる損傷)に関する疫学的調査によれば。受信1万件につき、44~66件の深刻な損傷が起こっているという。しかし、アメリカ国内の200以上の病院を対象に調査を行ったところ、上記のデータに見合う損傷数を報告した病院は全体の1%にすぎなかった。しかも50%は、受診1万件につき5件未満と報告していた。この結果が正しいとすれば、大半の病院が組織的な言い逃れを行っていることになる。(30ページ)

クローズド・ループ

西暦2世紀、ギシリャの医学者ガレノスが「瀉血」(血液の一部を抜き取る排毒療法)を広めたとき、水銀両方なども含めたこの種の治療法は、当時の最高の知識を持った学者が、まったくの善意から生み出したものだった。

しかし、その多くには実際の効果がないばかりか、なかには非常に有蓋なものさえあった。とくに瀉血は、病弱な患者からさらに体力を奪った。当時の医師たちがそれに気づかなかった原因は単純だが、根が深い。治療法を一度も検証しなかったのだ。彼らは患者の調子がよくなれば「瀉血で治った!」と信じ、患者が死ねば「よほど重病だったに違いない。奇跡の瀉血dえさえ救うことができなかったのだから!」と思い込んだ。・・・「クローズド・ループ」とは、失敗や欠陥にかかわる情報が放置されたり曲解されたりして、進歩につながらない現象や状態を指す。・・・瀉血19世紀まで一般的な治療法として広く認められていた。(26ページ)

ランダム化対象実験~もし瀉血を行わなかったらどうなっていたか?

患者が二つのグループにランダムに分かれている。「介入群」は瀉血療法を受け、「対照群」は受けていない。この検証方法は「ランダム化比較試験RCT」と呼ばれ、臨床試験などはこうして行われる。・・・実際(瀉血を受けたか否かの)二つのグループを比較してみると、中世の医師が盲目的に信じていた瀉血療法は、より多くの人々を死に至らしめていたことがわかる。この事実は、対照群の設定がなかれば目に見えない。これこそが瀉血19世紀 に至るまで盛んにおこなわれてきた要因だ。・・・成功に見えたものが実は失敗だったり、その逆もある。そもそも失敗かどうかはっきりしなければ、失敗から学ぶことはできない(191ページ)

失敗の科学

 医療方法はランダム化比較試験RCTを導入することによって成功と失敗を明確に比較することで著しく進歩することとなった。しかし医療を患者に活用する現場では失敗が隠されている。その結果未だ、患者10名に1名は医療ミスに合っている。本書は失敗から学ぶことが最良の進化の方法である、と提言する。失敗から学ぶとは陳腐ではあるが最高の方法あるのである。我々は間違える、その間違いを共有することで更に賢くなれる。それを拒むのはプライドであり、短期的な個人の損得であり、階層的組織、である。

蛇足

そもそも失敗を失敗として認識できているか?

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