毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

登山はいつ始まったか?~『観光大国スイスの誕生: 「辺境」から「崇高なる美の国」へ』河村英和氏(2013)

観光大国スイスの誕生: 「辺境」から「崇高なる美の国」へ (平凡社新書 (692))

河村氏は西洋建築史の研究家、かつてスイスは人々が恐れる山々に囲まれた未開の地にほかならなかった。スイスはいかにして「発見」されたのか。(2013)

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スイスを観光立国にしたもの

スイスを観光立国にしたのは、ほかでもない「崇高美」にとりわけ敏感な英国人たちであった。崇高美の概念は、ロマン主義精神の先がけであった。スイスには、崇高美を具体化した自然が豊富にある。・・・崇高美を端緒とする文化的な背景が、恐ろしい高山に立ち向かう困難な初登頂への挑戦や、登山・スイス観光ブームへと繋がってゆくことになるのである。(9ページ)

崇高美

崇高とは、畏怖を伴うことによって感じる美である。たとえば断崖絶壁、洞窟、渓谷、氷山、切り立った岩や山、火山の噴火、滝や荒天の海など、命の危険と隣り合わせになった自然の驚異など、人間の力ではとうてい及ばぬ事物・事象や景観に対して美を見る感性で、18世紀半ば以降のヨーロッパで流行した美学概念である。そのきっかけの一つが、ヨーロッパ中を震撼させた1755年のリスボン地震で、多くの文化人・思想家に強い影響を与えた。(50ページ)

ロマン主義

ロマン主義は、18世紀末から19世紀前半にヨーロッパで起こった精神運動の一つである。それまでの理性偏重、合理主義などに対し感受性や主観に重きをおいた一連の運動であり、恋愛賛美、民族意識の高揚、中世への憧憬といった特徴をもち、近代国民国家形成を促進した。(Wikiより抜粋)

モンブラン初登頂

モンブラン(4810m)は、当時はまだ「呪われた山」と呼ばれていて、近隣住民から恐れられ誰も登ろうと考える者はいなかった。・・・モンブラン発登攀は、1786年8月8日、二人のシャモニー出身者ジャック・バルマとミシェル=ガブリエル・パカールによって遂げられた。・・・ここで忘れてならないのは、ジュネーブ生まれの自然科学者オーラス・ド・ソシュールで、モンブラン登頂を発案したのはじつは彼である。ド・ソシュールは賞金を付けて、モンブラン登頂にチャレンジするものを募った。つまりその応募者がバルマとパカールで、「登山の父」と呼ばれているのはド・ソシュールのほうである。(55ページより抜粋)

観光大国スイスの誕生

今から230年前、モンブラン初登頂によって登山が発見された。登山とは山を登ることそのものを目的とし、その背景には崇高美とロマン主義という思想背景があった。

それまでスイスはフランスあるいはドイツからイタリアに抜ける山越え街道であったものが、そこにモンブランを始めとするヨーロッパアルプスが登山の対象に変った。それはスイスの辺境が観光大国へと変わっていく第1歩でもあった。

人類は昔から山を越えて移動してきたのであろう。山を越えることそのものを目的とする登山はわずか230年前に確立した。登山という概念があればこそ、登山は世界に普及していった。

蛇足

登山も、美も概念。

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