毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

国際節税スキームと生活保護制度を比較する~『税金を払わない巨大企業』富岡幸雄氏(2014)

税金を払わない巨大企業 (文春新書)

 

富岡氏は国税勤務を経て、税制の研究者。

 日本の法人税は本当に高いのか?ソフトバンク0.006%、ユニクロ6.92%巨大企業の驚くべき税負担の軽さ。(2014)

 

 

多国籍企業に対する税制の不備

・巨額な受取配当収益を、二重課税排除のためと称して課税対象外としている。

多国籍企業が世界で稼いだ所得を、特許権、商標権、ノウハウなどの無形資産の名目で、低税率国やタックス・ヘイブンのグループ企業に移転させることを目指している。

多国籍企業宇の世界的な税逃れを許している国際課税の欠陥と、その是正策の停滞

(本書113ページ)

企業の行動原理~(大企業幹部の発言から、2013年6月)

「欧米の株主は税もコストという感覚。少なくとも税の支払いも欧米並みにしないと、投資をしてくれない。企業は環境に適応するしかない。税をどこで払うか、生産や雇用をどこでするか、企業は国を選べる時代だ」(114ページ)

法人税を俯瞰して見ると

国にとって稼ぎ頭である大企業がグローバル化し、無国籍化して「国に税金を支払わない大企業群」となってしまい、税制が空洞化して財政赤字の元凶となっている。その穴埋めを、消費税増税という形で負担させられているのです。被害者は、大企業とは直積関係のない一般国民のほとんどです。(115ページ)

一方の個人の所得税というと

利子所得や配当所得、譲渡所得などの資産性所得の多くが、適確に課税対象とはならないうえに、分離課税などで軽減されています。資産性所得の多い富裕層は割安な税負担になっていて、税負担に耐えられる人がより多くの税金を担うという総合累進課税に風穴が空いているのです。(156ページ)

税金を支払わない巨大企業

本書は大企業の実効税率の低さを指摘する。それは脱税ではなく、「法に従って税金の支払額を少なくする」節税によるものである。子会社配当金は子会社が法人税を(日本でないかもしれないが)負担した後の利益から支払われる。その意味で配当金の益金不算入は合理的であるが、子会社課税の税率が低いと結果として課税が補足をされない。企業側の論理でいけば「企業が国を選べる時代」というのは正しい選択である。

グローバル資本主義はヒト、モノ、カネが移動すること制限しない。我々は国際分業化によって家庭に届けられる商品を消費する。資本主義の担い手である企業、特に多国籍化した大企業は活動の領域をグローバルに選択できる。個人でみても高額所得者は税務対策のため海外移住をする時代である。海外に低率の法人税所得税キャピタルゲイン課税を提供する国家が存在する限り企業と個人がこれを活用するには当然である。これは日本に限らず米国、欧州、すべての地域で共通した現象である。

残されてしまうのは国家・地域を簡単には選べない、大多数の個人である。労働者という言葉を使ってもいい。かつては先進国と発展途上国という国家間で行われていた構造が、一国の中で構造を作る様になっている。

企業や個人が稼いだ利益を地域に再投資しなければ地域は拡大再生産のサイクルを維持できない。米国だけが格差社会なのではない。日本の高度成長期に資産を形成できた幅広い層の個人の財産が消費された時、日本でも格差社会は更に進行する。英国のEU離脱問題もまたこの文脈で獲られるべきであろう。更に言えば中国の格差社会は日本を先取りしているのかもしれない。

国際的な節税スキームに法的に、あるいは道義上の問題はあるか?存在しない。生活保護を受けることに法的に道義上の問題はあるか?存在しない。生活保護は簡単にグローバル化できない労働者に残された制度である。国際的な節税の中には脱税もあるし、生活保護の中には不正受給も存在する。生活保護を道徳的に指弾するのなら国際的な節税スキームも指弾しなければいけない。

我々の住んでいる社会はグローバル資本主義社会である。一国の中に先進国と発展途上国が同居する社会である。本書が教えてくれるのはもはや昔には戻れない、という現実である。

蛇足

税金を支払わない巨大企業と生活保護を受給する個人、道義的に問題であるか?

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