毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

やっぱり記憶は次世代に引き継がれていた、~『変わらないために変わり続ける マンハッタンで見つけた科学と芸術』福岡伸一氏(2015)

変わらないために変わり続ける マンハッタンで見つけた科学と芸術

福岡氏は生物学の研究家、2013年からのアメリカで過ごした2年間の思索と冒険をノスタルジックにつづるエッセイ集。(2015)

 

DNAと遺伝子

DNAを長大な交響曲の楽譜のようなものだとしよう。音符を書き換えると音程が狂い、局が大きく変わってします。このようなやり方は突然変異に当たる。一方、五線譜の欄外に、ゆっくりとか、大きく、とか曲想や演奏のやり方を書き込む諸注意にあたるものが、DNAにも多々存在することがわかってきた。その一つがメチレーション。DNAにメチレーションがたくさん入っていると、一般的には遺伝子の活性が抑制され、メチレーションが抜けていると遺伝子が活性化されやすくなる。メチレーションの多寡はその生物がどのような環境で生きてきたか、そんな体験を経たかで変化すると考えられる。(63ページ)

メチレーションの持つインパク

体細胞で生じた獲得形質の記憶は、メチレーションのパターンとして生殖細胞に反映され、それが次世代へ遺伝される可能性がでてきた。(63ページ)

記憶が(すなわち獲得形質が)DNAを介して遺伝している、という重大な発見なのである。(61ページ)

生物界のタブー

生物学のタブーに、獲得遺伝子の遺伝、もしくはラマルキズム(ラマルク説)がある。キリンの首はなぜ長い。それはキリンが、高いところの葉っぱを食べようと常に首を伸ばす努力を続けた結果、何世代もの時間を経て、とうとうこんなに首が長くなったのです、、、これがラマルク説である。・・・しかし現在の生物学は、獲得形質の遺伝を完全に否定している。(59ページ)

記憶は遺伝するか?

福岡氏はメチレーション(メチル化)を楽譜の演奏スタイルに例える。DNA=楽譜は変らなくても、演奏スタイルが変化すれば曲自体は大きく影響を受ける。メチル化の量によって演奏スタイルは変化し、それは生殖細胞を通じ次世代に遺伝する可能性があるという。

 

DNA中の炭素原子にメチル基が付加する化学反応。エピジェネティクスに深く関わり、複雑な生物の体を正確に形づくるために必須の仕組みであると考えられている。DNAメチル化は、細胞が「自分がどこにいるのか」を記憶できるように安定的に遺伝子発現パターンを変化させたり、遺伝子発現を減少させたりする。(Wiki)

 

メチル化はエピジェネティクスの文脈では知られたキーワードである。福岡氏は楽譜を使った例えで分かりやすく解説した。さらに良かった点はラマルキズムに言及したことである。ラマルキズムはソ連で政治的に悪用された過去、優生学的思想との近似性から生物界のタブーである。

このエッセーのタイトルは「記憶は遺伝するか?」である。私は「自分を取り巻く環境情報は遺伝する」と読み替える。

蛇足

楽譜が一緒でも演奏でメッセージは変る

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