毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

我々は保守的な人間である~『天皇畏るべし 日本の夜明け、天皇は神であった』小室直樹(1986)

天皇畏るべし 日本の夜明け、天皇は神であった

 小室直樹は政治学、経済学の研究家、天皇は日本国民に、近代化を遂行する為の権威と力を与えた。(2016、1986文芸春秋の再販)

 

明治維新のテーマは「日本の因習」退治

(日本では)社会慣習とは運命の如く、人間の力を以てしては変えることの出来ないものである。日本の民衆はずっと、このように感じつつ、暮らして来た。・・・(日本人は)日本という伝統主義社会の住人であるから、世間や世間に於ける慣習などが社会的事実になってしまう。人間の力を以ては、到底動かせないものだと思い込む。存在が、そっくりそのまま、為すべき事だと信ずる。明治維新のテーマは、右の如き伝統主義、魑魅魍魎を折伏するうに至る。(24ページ)

大日本帝国憲法天皇と神との契約

近代憲法は何らかの意味で、主権者と人民との契約である。・・・処が、「大日本帝国憲法」の場合に限って、大日本帝国の“臣民”は契約の主体ではあり得ない。「不磨ノ大典ヲ宣布ス」る客体(対象)に過ぎない・・「大日本帝国憲法」は、天皇と皇祖、皇宗、皇考の神霊との間の契約であり、臣民は不在である。(140ページ)

天皇キリスト教的権威を持つが故に可能となった

現人神としての天皇、その「神」とは、キリスト教的意味に於ける神であった。キリスト教的神とは、権威(authority)を有する神である。此処に、「権威」とは、正統性(Legitimacy)の創造の事を言う。(124ページ)

天皇畏るべし

本書で小室直樹天皇制の変遷から、明治維新以降の天皇の権威を説明する。

  1. 天皇が武士の興した幕府に対して政治的にも宗教的にも権威を譲った。それは過去の天皇の相続に伴う混乱により「徳と政治」を失ったからであり、幕府が「徳と政治」を代わりに努める。
  2. その後徳川幕府は幕府の権威を高めようとし朱子学を導入する。朱子学下剋上を否定する。そうなると幕府が下剋上によって朝廷から権威を受けた経緯自体も空洞化する。
  3. 幕末、幕府の権威の低下によって天皇の権威が回復していた。

小室直樹明治維新により短時間に体制の変更が可能となったのは天皇の権威が既に確立していたからだと言う。大日本帝国憲法天皇が祖先の神霊と契約した結果を臣民に与えるという形式をとる。従って天皇が決めたことに逆らうことが出来ないが故に、臣民は体制の変更を受容したことになる。

我々は伝統主義的行動様式に縛られている。絶対的な権威によって否定されれば、縛られた行動を一気に変更することが出来たのである。今知るべきは今も我々は、現代版伝統主義的行動様式に縛られているということである。

実は我々は保守的な人間なのである。

蛇足

絶対的権威の揺らいだ今日、我々を縛るのは我々自身。

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