毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

過去と戦えば負け、未来と戦えば勝てる~『終わった人』内館牧子氏(2015)

終わった人

 内館氏は脚本家、定年って生前葬だな。衝撃的なこの一文から本書は始まる。(2015)

 

内館牧子

1970年、武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒。その後は三菱重工業に入社、1987年脚本家デビュー(当時39歳)。

 

 

OLという暮らし

当時の三菱重工業では、入社間もない女子社員と定年間近の女子社員がほとんど同じ内容の仕事をしていた。私は自分の将来を先輩社員たちによって、くっきりと見せられた気になったのだ。「生きる」ということは、思わぬ展開や予期せぬ出来事が起こるから面白い。ときめく。だが、今のOL生活を続ける限り、「安全」と「安定」と引き換えに、私にはそんなことは絶対に起こりえないとわかっていた。(『夢を叶える夢を見た』98ページ)

シナリオセンターに通う

OLのかたわら、『シナリオセンター』という脚本家養成学校の夜学に通うことにしたのである。ただ。それはやがて確かな「夢」としてふくらんでいった。とうてい現実になるとは思えなかったが、現実にするための努力だけはしようと思った。そして、初めて脚本家養成学校に行った日から約7年後、私は会社を辞めた。・・・私はあの時、ひと思いに辞めなかったら、絶対に脚本家にはなれなかった。絶対に夢は手にできなかった。(『夢を叶える夢を見た』15ページ)

辞めるんなら今よ。

「辞めるんなら今よ。早くしないと私みたいになっちゃうわよ」彼女は私の母と同い年で、独身だった。当時、50代半ばを過ぎており、定年が近くに迫っていた。・・・彼女は、私がシナリオを書いていることは知っていたが、退職を考えていることは話していない。きっと何となく察していたのだと思う。・・・この言葉が、私の背中を「飛べ」と押してくれたことは間違いない。(『夢を叶える夢を見た』101ページ)

終わった人

サラリーマンは定年によって社会的に一旦終わる。それは経営者であっても何かの専門家であっても同じである。世代交代をしていくことは止めることができない。だとしたらそこで何を考えるのか?内館氏は『終わった人』で定年を迎えた大企業のサラリーマンに肉薄する。内館氏自身が約30年前同じ思いをしていた。

その時の自信の経験から、夢を叶える為に飛んだ人、飛ばなかった人を取材、『夢を叶える夢を見た』(2005)を執筆した。内館氏は大手企業のOL勤務17年を経て脚本が入選したのを契機に独立する。その前の9年間自分の人生を変える為に苦闘していた時代があったことを知る。

『終わった人』のあとがきで、「思い出と戦っても勝てない」に触れる。思い出は時が立てばたつほど美化され、力を持つという。我々は思い出と戦うのではなく、夢という未来に取り組む必要があるのである。内館氏の小説はそのことを教えてくれる。

蛇足

夢と戦えば勝てる

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