毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

美術館の壁の色は何色だと思いますか?~『美術館の舞台裏: 魅せる展覧会を作るには 』

美術館の舞台裏: 魅せる展覧会を作るには (ちくま新書)

高橋氏は三菱1号館美術館の館長、展覧会開催から美術品を巡る事件、学芸員の仕事……新しい美術の殿堂の姿!(2015)

 

美術館の起源

歴史を遡ってみると、人々が大切にした宝物はけっしてアカデミックな視点から派生したものではありませんでした。美術品自体はいたって自然発生的に、神に捧げるもの、素直に美しいと感じられるもの、時には珍品であったり、時には人に自慢したいものであったりと、そういったごく人間的な感情から生まれたものだと考えられます。 紀元前4~5世紀の古代ギリシャアテネアクロポリスの神殿の前に、市民たちが神に捧げたいという敬虔な思いから、さまざまな奉納物が置かれるようになりました。それは美しい少女の彫像だったり、筋肉隆々としたたくましい青年の像だったりしました。・・・(アクロポリスのエントランス)には絵画や彫刻あんどが飾られていたようで、これが市民が平等に鑑賞できる、公共の場で作品が公開された、美術館の始まりではないか、と言われています。(24ページ)

三菱1号館美術館

私が現在館長を務める三菱1号館美術館の存在も、東京・丸の内という日本屈指のオフィス街の活性化に一役買ってきました・・・丸の内にも買い物客や観光客を取り込み、インタラクティブな文化や芸術を発信できる街に生れ変わらせたい、1号美術館にはそんなミッションも背負い開館しました。(10ページ)

美術館の主役は作品

壁面の色とテクスチャーは空間演出の鍵を握る重要なファクターです。・・・1号美術館の壁の色は少し赤味がかったグレーブラウンです・・・明るめの白やベージュという色ではなく、グレーブラウンを選んだ理由は、人間の眼が暗い色よりも明るい色に反応するからです。落ち着いた色調の作品をベージュなどの色調で囲むと、作品はより暗い印象で眼に映ります。相対的に19世紀の絵画は暗い色調の作品が多いため、周囲の壁の明度・彩度を作品よりも抑え目に設計しておかないと、絵画の色合いが暗く見えてしまします。(121ページ)

結局美術館とは

美術鑑賞、美術を楽しむ面白さとは、新しい視点、新しい価値観との出会いです。それは自分自身のなかに、新たな感受性を発見することでもあり、あるいは、わからないもから知りたい、好奇心をそそられる、という未知の領域への探求でもあるのです。(211ページ)

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三菱一号館美術館について | 新しい私に出会う、三菱一号館美術館

美術館の舞台裏

高橋氏は「東京国立美術館学芸員、そして設立間もない企業美術館の館長」を経験する。世界の美術館は欧米中心から、中東・アジアへの拡散を初めグローバル化と商業化の流れに翻弄されているという。欧米の有名美術館といえども運営費の確保に苦労しているという。美術館の壁の色にグレーブラウンを選んだエピソードは、美術館を設立に立ち会った豚鵜浦のリアリティがある。新しい美術館は新しい壁の色で新しい価値観を提供してくれていた。

蛇足

美術館とは、視覚を通じ人間の感性の覚醒をめざす(214ページ)

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