毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

風景画はいつ生まれたのか?~『エグゼクティブは美術館に集う (「脳力」を覚醒する美術鑑賞)』奥村高明氏(2015)

エグゼクティブは美術館に集う (「脳力」を覚醒する美術鑑賞)

 奥村氏は美術教育の実践者、美術の知識や鑑賞の方法を知ることで、仕事や実生活を創造的にします。(2015) 

風景画

風景画とは、目の前に広がる風景を描いた絵です。例えば、図2のピサロの描いたような絵です。よくありますね。美しい山野や広がる海原。しかし、このような風景画が描かれるようになったのは、それほど古いことではないのです。近代になってから、印象派が現れる直前です。田園や森の風景が単独で描かれるようになるのは19世紀になってからでした。「物事を観察するという近代的な概念が発達したから」あるいは「チューブ絵の具が発明されたから」などいろいろな理由があげられますが、その一つに「都市の成立」があげられます。・・・実はこの絵を「のどかだなあ」と思うのはビルや道路に囲まれた現代人、言い換えれば、絵のような風景を失った人々なのです。ピサロに影響を与え、多くの風景画を描いたバルビゾン派が生まれたのは、パリという大都市が発達したときでした。日本の浮世絵の広がりも、江戸が繁栄し、世界的な大都市になって、人々が移動したり旅行したりし始めた時代の出来事です。大都市の成立は、風景画を「いいなあ」「行ってみたいなあ」と思う人々をつくりだすのです。風景画を描いたり、買ったりするためには、都会や現代から見るという「まなざし」が必要というわけです。(16ページ)

まなざし

「まなざし」とは、なんらかの予見や考え方などを含んでいる姿勢を現した言葉です。少々意地悪く言い換えれば「思い込み」を持って世界を見る態度です。(15ページ)

 

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エグゼクティブは美術館に集う

 

本書によれば美術館とは「人々がすでに持っている知識、考え、感情に何らかの変化を及ぼし、問題提起を行い、価値観を揺さぶることのできるもの」。

タイトルの「エグゼクティブは~」は対象を限定させることになる。著者は長年にわたり、子供むけの絵画鑑賞プログラムに関わってきた。子供は絵画を前に議論することで、コミュニュケートし論理的思考を得ていく。これと同じことは美術鑑賞によって誰にでもできる、というのが本書の主張である。

美術鑑賞によって我々の「まなざし」の根源を知り、あるいは「違ったまなざし」を体験する。風景画が大都市の成立によって一般化したとは知らなかった。

ピサロの絵に登場する女性はこののどかな風景に癒されているのではなく、日常の仕事に倦んでいたのかもしれない。

 

蛇足

 

絵画の解説は他人の「まなざし」を知ること

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