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毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

これ以上できない、少なくとも私たちには~『時を刻む湖――7万枚の地層に挑んだ科学者たち』中川毅氏(2015)

時を刻む湖――7万枚の地層に挑んだ科学者たち (岩波科学ライブラリー)

 中川氏は古気象学の研究家、 

2013年、水月湖が過去5万年の時を測る「標準時計」として世界に認められた。その真の意味とは? 「物差し」となった、世にも稀な土の縞模様「年縞」とは? ひとりの若き研究者が描いた夢を発端に二十数年、研究チームはどのように広がり花開いたか。国境を越えた友情、ライバルとの戦い、挫折と栄光とを、当事者が熱く語る。(2015)

 

 

年縞

水月湖の年縞は、氷河期の寒い時代には1枚が約0.6ミリメートル、その後の暖かい時代には1.2ミリメートルほどになる。これが厚さにして45メートル、時代にしておよそ7万年分もたまっている。これほどの長さの年縞が連続的に発達している場所は世界でもほとんど例がなく、そのため水月湖は奇跡の湖といわれる。(14ページ)

水月湖の湖底には季節ごとにちがう物質が堆積している。これでとりあえず年縞ができる素地は整ったことになる・・・氷河期の水月湖の底は、こうした(セ氏4度の水が底に居座る)メカニズムによって酸素のない死の世界になっていた。その為、年縞も、生物によって乱されることなく、何万年もたまり続けるkとおができたのである。(19ページ)

水月湖が世界時計へ

2009年には、グリーンランドの氷床堆積物の年縞を用いた新しい定義が導入された。それによると、氷河期が終わって暖かい時代が到来したのは、いまから1万1650年プラスマイナス99年前のことだった。現代では水月湖の年代目盛を使うことで、年代の誤差はプラスマイナス34年程度にまで縮小している。1万年にとってのプラスマイナス34年は、1日に直すとおよそ5分弱である。この精度はもちろん、現代の前の振り子時計程度にはなっている。・・・(この誤差は)1メートルに置き換えるならプラスマイナス3ミリメートルに相当する。・・・現在のところ、プラスマイナス0年の境地に達しているのは年輪年代学だけである。(107ページ)

これ以上できない、少なくとも私たちには

信じがたいほど地道な作業が大半を占めたにもかかわらず、プロジェクトの雰囲気はいつでも非常に明るく前向きだったことを、最後に強調しておきたい。・・・私たちは「Unimprovable, at least for us」(これ以上できない、少なくとも私たちには)を目標にして、本気でそれに取り組んだ。究極のデータを出しているという実感は、どんなに単調な作業であったとしても、不思議とそれ自体に興奮作用があった。(120ページ)

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奇跡が生んだ世界の標準時計 福井県水月湖 - YouTube

時を刻む湖

 

地質時代の時間の測定は放射年代測定法と呼ばれる方法によって行われる。放射年代測定よって生じる誤差は植物の年輪によって補正されている。しかし氷河期以前(1万1650年以前)には植物の化石が無く、またサンゴ礁の年縞を使っても2万4000年前までしかデータが無かった。水月湖のデータはこれを5万年前までに一気に拡張したのである。

本書はこのプロジェクトリーダーであった中川氏による記録である。中川氏は自分の先駆者の役割について説明を怠らない、地質学の年代を決定するという大切だが地味な仕事は多くの科学者のリレーによって出来上がったものである。また逆に中川氏のチームが「これ以上できない、少なくとも私たちには」という意気込みで地道な作業を少しでも正確に行ったからこそ達成された研究でもあった。

人間の営みは先達の偉業に自らの使命感を上乗せすることで、前進する。

蛇足

 

これ以上できない、少なくとも私たちには

蛇足の蛇足

 

氷河期の気候は周期性に乏しく激変していた

http://www.hitachi-zaidan.org/kankyo/docdata/work04_18.pdf

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