毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

資本主義が生み出した、大英博物館、ダーウィン、そしてマルクス~『物語 大英博物館―二五〇年の軌跡 (中公新書)』出口 保夫氏(2005)

物語 大英博物館―二五〇年の軌跡 (中公新書)

出口氏は英文学の研究家、 英国の発展とともに、ギリシア、エジプト、アジアへと蒐集品を増やし、「世界一」の名にふさわしいまでに成長した。(2005)

 

 

 

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大英博物館という建物

1848年には、「イギリス中で最大の古典主義様式」を持つといわれる南側正面の建物が、その壮麗な姿を現したのである。この建物こそ現在我々が目にする大英博物館正面で、そのイオニア形式の柱廊には外側に45本の太い列柱が立っている。それらは周囲が5メートル以上もある、美しい巨大なポートランド石で、それらの巨石の列柱は古代の森を連想させる。(127ページ)

ペディメントは文明の進歩を象徴

この見事な柱廊のある博物館建物正面にある破風切妻壁ペディメントにある彫刻に、少し注目することにしよう。…このペディメントの彫刻には、19世紀イギリスの文明を象徴する思想が込められていた。もっと正確にいうならば、その思想とは「人類の文明の進歩」

であった。破風の型とそのペディペントの全体像は、ギリシャパルテノン神殿を模していることは誰の目にもわかる。そしてそこに並ぶ彫像そのものもギリシャ風で、それらの象徴的意味は次のように理解できる。

ペディメントの西端にある人物は、粗野にして野蛮な状態から宗教的影響の下に脱出するところを表している。つぎに彼が狩人ないしは農耕者として生きるための労働が具体化される。そこに族長的素朴さんが加わり、真の神への崇敬がけがされる、異教主義が広がり、芸術的領域が拡大する。天上的なものと、それに付随する異教への崇拝が、エジプト人、カルディア人、あるいは天文学を学ぶ他の諸民族によって導入され、さらに中央にある彫像によって表現される。(大英博物館概要1853年)

そこには二人の科学者、ダーウィンとライエルの影響

・・・これらはイギリスの文明が、限りなく発達するものと考えられていた時代の産物である。そのペディメントの彫刻群は、イギリスという国家がようやく世界史上、もっとも大きな位置を占める時代の夜明けを象徴するものだったに違いない。

そしてそれらの象徴性に、ヴイクトリア時代の、世界にもっとも傑出した二人の科学者チャールズ・ダーウィンとチャールズ・ライエルの存在、すなわち前者による『種の起源』、後者による『地質学の原理』が暗示されている事実は、先の彫刻家の制作過程によってもわかるだろう。そこには人間だけでなく、象やライオンが彫り込まれているからである。かつて」の古い時代には、17世紀のミルトンでさえ動物は人間に劣るものとし、決して同列にあつかうことはなかった。(130ページ)

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British Museum Pediment Sculpture - Bob Speel's Website

 
大英博物館が象徴するもの

大英博物館のペディメントは動物から粗野な人間、神に肉薄した知性を獲得した存在を進化論という解釈で並べている。1850年代はイギリスの、経済だけでなく学術的にも絶頂期であったことがわかる。そして母国ドイツを追われたマルクス大英博物館に30年に渡って通い詰め、資本論を執筆したことでも知られている。そしてマルクスがダーゥインの進化論から大きな影響を受けて、1848年資本論を出版した。

大英博物館は、資本主義の上に開いた、進化論と共産主義という2つの大きな潮流を象徴し、育てたことになる。

蛇足

1848年、欧州大陸は革命の年、日本はペリー来航の2年前

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