毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

なぜ1オクターブ違う「ド」は同じ音に聴こえるのか?~『なぜ猫は鏡を見ないか?―音楽と心の進化誌 』伊東 乾氏(2013)

なぜ猫は鏡を見ないか?―音楽と心の進化誌 (NHKブックス No.120

伊東氏は作曲家、指揮者、人間と音楽をめぐる、音と心の結びつきに迫る。(2013)

 

 

音をスペクトルに分解すること=「虹の理論」

振動する弦の長さを半分、3分の1、4分の1、…と短くしてゆくと振動数が二倍、三倍、四倍と増えてゆく。この系列を自然倍音といい、またこうした周波数の並びをスペクトルと呼ぶことは広く知られていると思う。(90ページ)

先ほど振動数が二倍になれば音は一オクターブ高く聴こえると書いた。「オクターブ」という言葉はオクトパスつまり蛸と同語源で、8という数字に由来する。ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シと来て8つ目がまたド。(92ページ)

1オクターブ違う「ド」は2倍の振動数

なぜ振動数が2倍の音を、私たちは「同じド」と思うのだろう?「虹の理論」はそれに何一つ答えていない。「音が調和して聞こえるときには振動数の比が単純になっている」と言っているだけだ。…私たちはヒトの脳や耳に即して物理ではなく、心理、音波の調和関係ではなく響きの協和感を考える必要がある。協和音程の問題を考える上で、もっとも基本的なのはオクターブだ。なぜ1オクターブ上下の音は「同じ音」に聞こえるのか?よく考えると不思議な話だ。(94ページ)

脳の聴覚的グルーピング

答えは自然界で物体が発する音の響きになる。私たちの身の回りでは常に複数の音源が何かしら音を出している。…人間の耳はしっかり音源を分離して認知する。(同時になっている)猫と茶碗(の割れる音)を取り違えることはまずない。理由は脳が行う「聴覚的グルーピング」にある。耳にはさまざまな音が同時に入ってくるが、同一の音源から出てくる響きを脳は自動的に「群化」してしまう。その際、もっとも親和性の高い響き、人の脳が知覚的に一まとまりにし易いのが、同じ物体から発せられる「低次倍音のグループ」だ。これを知覚的に束ね「ひとつのもの」「同じもの」と認識しておく方が、行動を取る上で進化的に有利であったと考えられる。こんな経緯からヒトの脳は互いに低次の倍音関係にあるものを「近親性の高い音程」つまり「協和」と認識するものだと思われる。(95ページ)

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猫は垂直に飛び上がる

 

著者は指揮者、作曲家でありながら物理学を専攻した。音楽の世界を物理現象から捉えなおす。一オクターブ違うドは周波数が倍で重なり合う。それだけでなく脳は同じ物体から出された音だと認識し、グルーピングする。しかし高次の、つまり例えば4オクターブずれると同じ音だとは感じない。我々は進化の歴史で音源を聞き分けて危険を察知することを行ってきた。生存の為に有利だったということである。

著者は本書最後に「猫は垂直に飛び上がる」、という。それは「別の次元に飛んで問題を解く物理の王道」の比喩であると説明する。音楽を物理現象から認知脳科学にまで掘り下げることに、新鮮な驚きを覚える。

蛇足

 

オクターブの由来を知っていますか?

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