毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

あなたにとって、「この人生においてやるべきこと」に必要なシステムは何か?~『職業としての小説家』村上春樹氏(2015)

職業としての小説家 (Switch library)

誰のために書くのか、どのように書くのか、そしてなぜ小説を書き続けるのか、小説を書くための強い心とは。(2015)

 

時間を味方につける

僕は毎日10枚の原稿を書きます。とても淡々と。「希望もなく、絶望もなく」というのは実に言い得て妙です。朝早く起きて、コーヒーを温め、4時間か5時間、机に向かいます。一日十枚原稿を書けば、1か月で3百枚書けます。単純計算すれば、半年で1800枚が書けることになります。具体的な例を挙げれば、『海辺のカフカ』という作品の第1稿が1800枚でした。(142ページ)

僕の場合、ある程度作品としてかたちがついたところで、まず奥さんに原稿を読ませます。(146ページ)

「第三者導入」プロセスにおいて、僕にはひとつ個人的ルールがあります。それは「けちをつけられた部分があれば、何はともあれ書き直そうぜ」ということです。批判に納得がいかなくても、とにかく指摘を受けた部分があれば、そこを頭から書き直します。指摘に同意できない場合には、相手の助言とはぜんぜん違う方向に書き直したりもします。(148ページ)

どこまでも個人的でフィジカルな営み

フィジカルな力とスピリチュアルな力は、バランス良く両立させなくてはならない。それぞれがお互いを補助しあうような体勢にもっていかなくてはならない。戦いが長期戦になればなるほど、このセオリーはより大きな意味あいを持ってきます。(185ページ)

海外に出ていくフロンティア

僕は自分で翻訳者を見つけて個人的に翻訳してもらい、その翻訳を自分でチェックし、その英訳された原稿をエージェントに持ち込み、出版社に売ってもらうという方法をとりました。そうすれば、エージェントも出版社も、僕をアメリカ人の作家と同じスタンスで扱うことができます。つまり外国語で小説を書く外国人作家としてではなく、アメリカの作家たちと同じグランドに立ち、彼らと同じルールでプレイするわけです。まずそういうシステムをこちらでしっかり設定しました。(276ページ)

さて、何を書けばいいのか?

世界はつまらなそうに見えて、実に多くの魅力的な、謎めいた原石に満ちています。小説家というのはそれを見出す目を持ち合わせた人々のことです。そしてもうひとつ素晴らしいのは、それらが基本的に無料であるということです。あなたは正しい一対の目さえ具えていれば、それらの貴重な原石をどれでも選び放題、採り放題なのです。

こんな素晴らしい職業って、他にちょっとないと思いませんか?(131ページ)

職業としての小説家

 

朝1時間ジョギングをして、体調を管理する。コーヒーを飲んで1日4-5時間小説を書く。第1稿が出来上がると、それを第三者に見せる。指摘を受けた部分は修正を加える。こうやって長編小説ができ上がる。日本の文壇とは付き合わない、アメリカの作家と同列で戦う。

村上春樹氏は1976年4月、神宮球場で野球観戦をしていて、「そうだ、僕にも小説が書けるかもしれない」と思って以来40年かけて一つのシステムを作り上げた。村上氏にとってはこのシステムが職業としての小説家に成らしめている。正にプロフェッショナルである。

蛇足

 

毎朝のジョギングとは「僕がこの人生においてやらなくてはならないものごとの表象」(173ページ)

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