毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

ディストピアの意味を知っていますか?~『この国。』石持浅海氏(2013)

この国。 (光文社文庫)

 石持氏はミステリー作家。

一党独裁の管理国家である“この国”は非戦平和を掲げることで経済成長を遂げた。死刑執行は娯楽となり、国民は小学校卒業時に将来が決められ、士官学校は公務員養成所と化し、政府が売春宿を管理する。そんな国の治安警察官・番匠と、反政府組織の稀代の戦略家・松浦―ともに「この国のため」に知力の限りを尽くす二人の、裏の裏を読み合う頭脳戦を活写した傑作!(本書裏表紙より)

  

この国。

長く鎖国政策を続けてきた近世以後、開国と共に政権を取ったのが、党の創立メンバーたちだった。その後、慣れない外交に苦労しながらも、わが国を発展させ続けた。19世紀の終りから20世紀半ばにかけての戦争の時代にも、国を焦土にはしなかった。そして21世紀の今、資源を持たないわが国が、頭脳国家として世界で確固たる地位を占めているのは、一党独裁政党ならではの、ブレのない国家運営のためだ。(21ページ)

植民地政策を採らない

(開国後すぐに)列強の圧倒的な国力に、新政府は恐怖した。連中と戦争をしても、絶対に勝てない。かといって、国力を上げるために同じような植民地政策を採っても、うまくいくはずがない。・・・それでは我が国を発展させるためには、どうすればいいか。敵を作らなければよい。幸い我が国は島国だ、紛争が起こりやすい国境を持たない。他国に対してはのらりくらりと対応して、侵略しない代りに侵略されもしない。そんな方向に進めばよい。人畜無害を表明しながら、持てる力を殖産興行に注ぐ。それが新政府の選択だった。

第一次、第二次世界大戦共に中立、不参戦を貫き、ロシア革命に端を発した介入戦争にも朝鮮戦争にも兵を送らなかった。(149ページ)

ディストピア

 

ディストピアは、ユートピア(理想郷)の正反対の社会である。そこでは平等で秩序正しく、貧困や紛争もない理想的な社会に見えるが、実態は徹底的な管理・統制が敷かれ、自由も外見のみであったり、人としての尊厳や人間性がどこかで否定されている社会として描写される。(Wiki

再び、「この国。」とは

 

本書はミステリー小説であり、描かれる社会はミステリーとしての舞台を用意する為のものである。直接の表現はないが、「この国。」は日本のパラレルワールドとして描かれている。

今歴史を俯瞰してみると、欧米の競争力の本質は植民地を保有していたことではなく、化石燃料の利用というエネルギー革命にあったことに気付く。エネルギーを加速度的に使用することが可能であれば植民地が無くとも、一定の生活水準は確保できる。この設定にリアリティを感じる。

一方管理社会とは、定められたルールの中での競争社会であり、ルールを破り新たな価値観を設定するには限界がある。果たして管理社会を続けて、世界に対して貢献し続けられるのか?

ミステリー小説の伏線として簡単に描かれた、パラレルワールドに刺激を受ける。

蛇足

 

ミステリーの内容は本書をどうぞ

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