毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

"偉大な発見"は科学者と出家した求道者の仕事~『出家的人生のすすめ』佐々木 閑 氏(2015)

出家的人生のすすめ (集英社新書)

佐々木氏は宗教学者、二五〇〇年前、釈迦が本来説いた仏教によれば、出家とは世を捨てることではなく、社会からの支援を前提に同志とやりたいことを一生かけて追求することを意味した。そして、この出家の教えは現代の一般社会の様々な職業でも生かせる視点を内包している。(2015)

出家的行き方  

出家とはいったいなにか。それはひとことで言うなら、「世俗の暮しでは手に入れることのできない特別なものを求めて、世俗とは別の価値観で生きる世界へとジャンプすること」です。

仏道修行者は、仕事をすべて放棄し、修業という自分の好きなことだけをやっていくと決意した人たちですから、原則として無収入です。したがって生計が成り立ちませんから、一般の人々に頭を下げ、自分たちの誠実さを理解してもらうために「律」に則った立派な態度を示し、それによって残り物をもらって暮らすことになります。(114ページ)

まったく役に立たない科学

「ビッグバンはそうして起こったのか」などという問題を真剣に考え続け、たとえそれが解けたとしても、それでなにか生活が便利になるとか、病気が直るとか、そういう実利は何も得られないのです。ですから本来ならばそういった科学者は誰からも何の報酬も貰えませんから無収入のはずです。(115ページ)

ビックバンの研究が、今は何の役に立たなくても、それが、論理的に正しい方法で探求されていくなら、いつかは私たちの日常と結びつく思いがけない展開が起こって、とてつもない利益を与えてくっるのではないかという思いが心の底にあります。(118ページ)

現代の文明は「役に立たない科学」に支えられている

現代社会の技術を考えたときに、微分積分ニュートン力学相対性理論量子論、DNAの構造解析、情報科学など、無数の科学領域がその必須の基礎になっていますが、ほとんどは、実利性とは全く無関係に「真理を知りたい」と考える修業者的科学者によって生み出されたものです。(119ページ)

科学も出家的行き方の結果

科学が、私たちの世界観の転換までも含んだ、強大な社会的駆動力として全世界的な影響力を持つゆになった理由は、あくまで利益を離れて「世の真理の探求」に専念した出家的科学者がいたことにあります。別の言い方をすれば、そういった出家的行き方をする人たちに敬意を払い、その活動をサポートしようと考える社会からしか、真の科学的発展は生まれないということです。(120ページ)

出家的行き方と科学

 革新的な発見は既存の価値観の外にある。従って革新的な発見は無報酬である。佐々木氏はこの出家的行き方は誰にでも取り入れられると言う。一人の科学者が既存の技術を洗練させる、いわばエンジニアに近い領域を手掛ける。そして同時に革新的な発見を追求することを手掛ける。一人の人間の中に2つの行き方が両立できる。

だからこそライプニッツニュートンアインシュタイン、ボーア、ワトソンとクリック、チューリングらは出家的行き方を続けられたのである。その結果彼らの発見は巨大な実利をもたらした。無報酬な発見が結果として世界を変えてきた。

蛇足

谷が深ければ山は高い

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