毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

貨幣は国王あるいは国家機関によって発行されるべきか?~『文明の誕生 - メソポタミア、ローマ、そして日本へ』小林 登志子 氏(2015)

 

文明の誕生 - メソポタミア、ローマ、そして日本へ (中公新書)

小林氏は古代オリエント氏の研究家、都市や道路、お金やカレンダー、文字や宗教、そして動物との関係まで、私たちの文明がいつ生まれ、どう変わったのかを巨細に辿る。 (2015)

 

 国王の横顔を刻んだダーリック金貨

 

 

アケメネス朝ペルシアのダイオレス1世は帝国共通のダーリック金貨、シグロス銀貨を発行した。銀貨20枚で、金貨1枚になる。金貨は純度98%、銀貨は90%以上と、きわめて良質であった。

 

 

金貨、銀貨の表面には肩肘をつき、弓などを手にし、王冠をかぶった王の姿に統一されている。硬貨の発行は画期的なこころみであったが、その純度の高さゆえにほかの貴金属とともに退蔵されることが多く、アナトリア西部などの一部地域を除いて流通することはなかった。バビロニアでは昔ながらの秤量貨幣が使われていた。

 

 

貨幣経済がオリエントに定着したのはヘレニズム時代で、硬貨の発行権を国王が握り、王の横顔が刻まれるようになった。この習慣は当方ではパルディア、パクトリア(前3世紀半ば-前120年頃)などで、西方ではローマで継承され、さらにその後のヨーロッパ諸国でも採用された。現在でも、イギリスはEUに加盟しながらも、単一通貨ユーロを採用せずに、いまだにポンドを使い、硬貨にはエリザベス2世の横顔が刻まれている。(127ページ)

 

 

コインが好きで!ーフジタク談話室:

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ダーリック金貨

 

紀元前7世紀頃のアナトリアにいたリュディア人は金貨の貨幣を鋳造した最初の民族だとヘロドトスは伝えている・・・(125ページ)

秤量貨幣

 

使用に際して交換価値を品位・量目を検査して計って用いる貨幣。長期間の使用や所有、保管でも変化しにくい金銀青銅などを加工もしくは加工せずに用いた例が多く、貨幣の最古の形態の1つである。鋳造精錬した貴金属は打刻したナゲット状のものや、なかでも金は価値の保存に優れるため砂金のままでも流通した。(Wiki

貨幣の発行権は誰が持っていてもよい?

 

ダーリック金貨の発行権はダイオレス1世が握り、故にダイオレス1世の横顔が刻まれていた。その以前は秤量貨幣であり発行権という概念は存在しなかった。つまりは貨幣の発行は誰かの権威によって裏打ちされたのではなく、貴金属としての価値に裏打ちされていたのである。我々は貨幣には中央銀行の裏付けが不可欠であると思い込んでいる。しかし歴史を遡ると貨幣は交換の中で自主的発生しうるものであることが明確になる。国家のみが貨幣を発行し得るというのは、つまりは錯覚に過ぎない。貨幣は皆が受け取る、だだこの1点でのみ貨幣であることに改めて気づかされる。

 
蛇足

 

 

ヨーロッパの国王が持っていた通貨発行権はどこに移ったのか?

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