毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

ビックマック指数の精度から見えてくる、ウォール街の投資手法~『ウォール街の物理学者』J・O・ウェザーオール氏(2015)

ウォール街の物理学者 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

ウェザーオール氏はサイエンスライター、 カオス理論、複雑系アルゴリズムなどの知識をもつ理系“クオンツ”は金融界で莫大な利益を生むのだが…。(原著は2013、邦訳は2015)

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経済学のマラニーと数理物理学のワインシュタインの二人(実は恋人どうし)

 

 

二人の共同研究は、早くも実を結ぼうとしていた。二人が目をつけたのは、指数問題というテーマだった。・・・代表的な例としては、ダウ平均株価やS&P500などの株価指数がある。株価の膨大な情報をうまく圧縮して、アメリカの株式市場の状態をシンプルな数字に置き換えたものだ。(308ページ)

 

指数問題に物理学のゲージ理論を活用

 

 

マラニーとワインシュタインは、指数問題に対するまったく新しいアプローチを考え出した。数理物理学のゲージ理論という方法を使って、より正確な指数を導き出そうとしたのだ。・・・ゲージ理論は、幾何額を使って一見無関係なものの大きさを比較できるようにする理論だ。(309ページ)

 

ワイルのゲージ理論

 

 

「平行移動(出発したときと同じ向きのまま動くこと)」が曲がった表面であれば、どの経路を通るかによって体の向きが変わってしまう。つまり、平行移動が「経路依存」であるということだ。・・・ワイルは、向きが変わるなら長さだって変わる可能性があると考えた。そこに物理学的な意味での区別がつかないからだ。ワイルはこの発想を推し進め、矢印を曲がった表面にそって1周させたとき、通る経路によって戻ってきた矢印の長さが変わるような理論を作り上げた。ワイルはこの新たな理論を、ゲージ理論と名付けた。ゲージ理論の基本的な考え方は、これこそが正しいという絶対的な「ゲージ」(物差し)がどこにも存在しない、というものだ。(321ページ)

 

平行移動の経路依存

 

カニが地球1周を赤道にそって横歩きをすれば、カニがスタート地点に戻った時、体の向きは変わらない。赤道の1周では平面と同等であるからである。一方カニが赤道を半周回った所で90度右折して北極を経由、カニがスタート地点に戻ってくるとカニの向きはスタート地点と逆さまになっている。これを経路依存という。

ゲージ理論を指数問題に持ち込む

 

 

ワイルの発見の本質は、ふつうは比較できない量を比較するための数学的手法を編み出したところにある。ワイルが題材に使ったのは、離れた場所にある物差しの長さだった。物差しをひとつの場所に運んできて、上手く並べてみせたのだ。そして指数の問題を考えるときも、その本質は同じだ。(329ページ)

 

ゲージ理論をビックマック指数で例えると

 

ビックマック指数というものがある。世界中のビックマックの価格から物価水準を比較する。これを更に正確にするには一度にビックマックを東京に配達させる。送料込みの価格から送料を引き、各地のビックマックの大きさの違いを調整する。ビックマック指数は更に正確になる。ゲージ理論は現代物理学で確立された手法でもある。

f:id:kocho-3:20150618085100p:plain日本は380円、一番高い国はスイスの888円(単純比較)

 

世界のビッグマック価格ランキング - 世界経済のネタ帳

 

株価を数理モデルに従って投資をすることは悪か?

 

本書のスタンスは「数理モデルは不完全である、しかし時を経て洗練され続けている。問題なのは数理モデルの不完全性を無視する時、社会的経済的悲劇を招く。」というものである。

世界経済は2008年のリーマンショック、今起ころうとしているギリシャ危機、など常にマーケットが暴発するリスクを内包している。それを数理モデルに基づく投資の責任にするのは簡単である。しかし本書の著者は今まで数理モデルが進化し、株価を、そして世界を分析する能力を上げてきたと主張する。そして今もその努力が続けられている。この主張は十分に一考に値する。

蛇足

全員が同じ投資モデルを使う時、悲劇がやってくる。

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