毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

"環境にやさしい"に隠された本当の意味何か?~『現代思想としての環境問題、脳と遺伝子の共生』佐倉 統 氏(1992)

現代思想としての環境問題―脳と遺伝子の共生 (中公新書)

佐倉氏は進化生物学の研究家、環境問題とは情報の肥大化した文化によって人間が危機に立っていることを意味するとして、コンピュータに希望を見る。(1992)

 
 
環境問題とは何か?

 

 

環境問題複合体における環境はほとんど自然と同義語であり、人間と対置されるものである。すなわち、人間の対極にあるのが自然であり、環境とされる。人間と対極にあるということは、環境は常にワンセットとして扱われる。(34ページ)

“人間”対“自然”の二項対立

 

人間と自然を対立させる発想は、環境問題複合体の一番根本にあるネックだ。「地球にやさしいライフ・スタイル」というキャッチ・フレーズは、この対立を解消いないまま隠蔽してしまう効果がある。海や大気が少々汚染されようと、オゾン層に穴があこうと、その程度のことでは地球は別に困らない。困るのは、ぼくたち人間なのだ。だから、「地球にやさしい」というのは欺瞞である。あの標語の下に提唱されている様々な行為は、「人間にやさしい」ものに他ならない。(114ページ)

人間は環境を変えてきた。

 

 

生態系の中には人間が含まれているのだから、環境問題複合体には人間の問題が含まれている。次に、その、人間を含んだ環境は、人間に包含される。これは、人間が環境を改変し管理していく、進化史上特異な生物であることに基づく。・・・かつて人間は、自然を管理することで生物として成功した。生息域を拡大し、個体数を増大させた。しかし、いつごろからか、脳という、元来は遺伝子にとっての前線管理司令部が、大本営たる遺伝子に静かなる反逆を始めた。現在の人間の繁栄は、脳に蓄えられた情報によるものである。それが遺伝子の論理と組み合わなくなっているのが現在の惨状の原因である。(115ページ)

我々の脳は外部メモリーを活用して更に情報処理能力を上げている

 

 脳は、遺伝子が取り扱える情報量よりはるかに多い情報を処理する。生物の遺伝子ひとつあたりの情報処理能力は、爬虫類あたりから頭打ちとなる。その後は人間に至るまで、脳の情報処理能力を増大させる方針で進化してきたのである。・・・脳はすでにその外部メモリーを創り出している。(142ページ) 

環境問題複合体の解決策

 

著者は環境問題複合体に正体は「遺伝子が脳を生んだ→脳+外部メモリーによって増大した脳の機能が遺伝子を破滅に追い込んでいる」ことだという。外部メモリーはミーム(人々の間で心から心へとコピーされる文化)であり、文字であり、コンピューターである。

自然、あるいは遺伝子が35億年かけて情報を蓄えてきたのに対し、人間あるいは脳は外部メモリーを使って肥大化したといえ精緻な情報制御ができない事が原因となる。本書最後に「形式による推論のエンジンとしては、コンピューターは極めて優れている」と書く。脳と外部メモリーたるコンピューターが35億年の遺伝情報に匹敵する情報操作を可能にすれば環境問題は解決される事になる。脳と遺伝子の対立として環境問題を捉え、脳の延長線上にコンピューターを位置づける。“地球にやさしい”という表現が覆い隠すものの一部を明らかにしてくれる。

蛇足

 自然対人間の二項対立は本質に迫れない

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