毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

洗剤アタックと極限微生物の共通項、それは非常識という事~『極限微生物と技術革新』堀越 弘毅 氏(2012)

極限微生物と技術革新

堀越氏は1968年に好アルカリ性細菌を発見し、極限環境微生物研究の突破口を開いた。(2012年)

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アルカリ性菌から極限微生物へ

 

思いもよらぬ発見が、目の前にあった。半世紀以上前、著者によって好アルカリ性微生物が発見された。それは、かのパスツールの常識を覆す大発見だった。ノーベル賞がカバーする範囲も超えており、すぐには信じてもらえなかった。それもいまや“常識”となり、火星生命探査に根拠を与えるとともに、洗剤「アタック」や消臭剤「ファブリーズ」などの革新製品も生んだ。(本書帯より)

スランプからヨーロッパへ

 

前年に米国カリフォルニア大学の留学先から帰国したものの、思ったように研究は進まず、スランプからなんとか抜け出したいと焦っていた。そして、家中にあるお金をかき集め、米国経由でヨーロッパへ放浪の旅に出かけたのが、この1968年なのである。(139ページ)

1968年の10月も末のある日、イタリアのフローレンス(フィレンツェ)の丘で、暮れかかるトスカーナ地方の秋をぼんやり眺めていた。そこには、日本とまったく違った、過去と現在とが融けあったようなルネッサンスの世界があった。ルネッサンスの文明は見本の文明と明らかに異なっている。14~15世紀と言えば、日本では室町時代である。室町時代の日本人は、このようなルネッサンス文明の世界というものを、想像することさえできなかったであろう。(140ページ)

アルカリ性菌への着想

 

人の世界にはこのような環境に強く支配された異なる文明があるのだから、微生物の世界にも、きっとわれわれがまったく知らない世界、知られていない世界があるのではないか?・・・微生物の餌である培地の条件を変えてやれば、違った微生物の世界が見えるかもしれない。典型的な条件の違いはPHだ。酸性側の研究は、これまで広く行われている、しかしアルカリ側での研究というものは、そのような食べ物が皆無に近いためか、これまほとんどなされていないではないか!(142ページ)

今日、生物学、特に微生物学では、極限微生物を除いて考えることはできない時代となった。特に、好熱菌や好アルカリ性菌は、普遍的な存在となり、当たり前のように多くの目的に利用されている。・・・一言で生命といっても、我々が今見ているものだけが生命とは限らない。影の生命があっても不思議ではないと思う。ヒ素の多い湖、砂漠、海の熱水鉱床などにも、生命はすんでいるかもしれない。(325ページ)

洗剤アタック

 

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花王株式会社 アタック 高活性バイオEX洗剤アタックはセルロース(繊維)を分解する酵素のうち、アルカリ性の環境でも安定して活性を示すアルカリセルラーゼ酵素を使用。今や洗剤の60%がアルカリ性、我々は知らないうちにその恩恵を受けている。

堀越博士の軌跡から学ぶこと

 

 

堀越氏は研究の成果をセレンディビリティ という言葉を使って振り返っている。思わぬ発見をする才能であり、「科学の世界では普通に使われている言葉だが、半世紀以上昔は、まだどんな英英辞典にも載っていなかった。」(5ページ)。

堀越氏がヨーロッパ放浪に出たのは36歳の時、極限微生物の世界に踏み入れたのは52歳の時。堀越氏は自ら環境を変えて成果を出してきた。我々は習慣の中で思考を停止している領域が沢山ある。環境を変える事、未知の世界に踏み入れる事、これこそがセレンディビリティ をなし遂げる要素であると思えてくる。

蛇足

非常識にどれだけ挑戦できるか?

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