毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

日高昆布が教えてくれる事、森と海の生態系は実は一体であった~『森が消えれば海も死ぬー陸と海を結ぶ生態学』松永勝彦 氏(2010)

森が消えれば海も死ぬ―陸と海を結ぶ生態学 第2版 (ブルーバックス)

松永氏は森林と水産の関係を専門とする、昔から、魚介類を増やすには水辺の森林を守ることが大切とされ、こうした森は「魚つき林」と呼ばれた。(2010年)

 

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海水中の鉄は粒子状であり細胞には利用できない。

 

 

水中の鉄は濾過すると、大部分は0.4マイクロメートルの孔径を通過できない大きさの粒状である。鉄は光合成生物に不可欠の元素でありながら、酸素を含んだ海水中では粒子として存在し、基本的に鉄イオンの状態で存在することができない。(70ページ)

腐敗土のフルボ酸が利用可能な鉄化合物にしている。

 

 

腐敗土層において、枯れ葉などをバクテリア二酸化炭素や水に分解したあとに有機物質が残る。その有機物質が化学的、微生物学的変化を受けたものが腐敗物質である。・・・森林の腐敗土中で、フルボ酸やフミン酸と強い絆で結ばれた鉄は、河川を通して、あるいは海岸まで森林が迫っている場合には、森林地帯から直接、海に流れ込んでいるのである。・・・フルボ酸そのものは細胞には取り込まれないことがわかった。つまり、フルボ酸は細胞膜まで鉄を運ぶ役割をしているのだ。フルボ酸は細胞膜まで鉄を運ぶ役割をしているのだ。フルボ酸は光合成生物に利用されている鉄の供給源であるとみなしてよいということである。(76ページ)

 

光合成を行うコンブにはフルボ酸と結合した鉄が不可欠

 

 

北海道日高市庁の井寒台、道南の渡島半島に位置する南芽部のコンブなどは最高級品とされている。この海には数多くの河川や小川が流入しており、森林の腐敗土から溶出した栄養素が沿岸海域に運ばれ、コンブの質を高めていることはいうまでもない。(57ページ)

 

襟裳岬の再生

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襟裳岬周辺は明治以降入植が進むと森林は伐採され土壌までもが失われる状況に陥った。その影響は山林だけでなく沿岸の海中にまで及んだ。土砂が流れ込む沿岸部を回遊魚は避け、コンブは泥が付着して成長できなくなった。漁獲高は激減した。

1954年から緑化に取り組み、2007年には緑化面積の95%を復活、最終的には180ヘクタールを緑化する。著者によれば緑化面積の増加と漁獲高に増加の傾向は一致するという。

森が復活すれば海も復活する

陸上で起きた事は海中でも起きるという当たり前の事に気づく。コンブを例にとれば光合成を行う点で陸上であっても水中であっても、植物の基本的な仕組みは一緒である。

鉄は原子の海では豊富にあったが現在の海中には稀少である。鉄は土壌の中には当然ながら豊富に含まれている。植物が土壌の鉄を使って光合成をし、それが腐敗土となり、更にフルボ酸により海中でも植物が吸収可能となる。見事に鉄のサイクルが成立している。

これは「鉄仮説」と呼ばれ、米国の学者が南極洋における植物プランクトンの調査によって提唱されたという。海洋の植物プランクトンは微量元素としての鉄の獲得が制約条件になって台繁殖していないと言う。森と沿岸の海がつながっていると同時に、大洋の生物もまた地球規模の影響を受けている。日高コンブはその事を教えてくれる。

蛇足

 

地上と海中の生態系はリンクしている。

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