毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

我々が忘れてしまった事、200年前、世界は「木材の時代」だった。~『木材と文明』Jラートカウ(2013)

木材と文明

Jラートカウ氏はドイツの環境史学の研究者、ヨーロッパは、文明の基礎である「木材」をどの様に利用してきたか?(2013)

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19世紀米国の機械は木材で出来ていた

 

 

 

木材は燃料であり、基本的な物質だった

木材は、数千年にわたって、もっとも重要な、いやそれどころか、ほとんど唯一の燃料材であり、建築材であり、製品材料でしたが、それだけではありません、加えて、化学工業の先駆けとなった生業のための基本原料でもありました。(17ページ)

18世紀は木の時代の絶頂期

18世紀にイギリスで始まった「産業革命」は、世界規模の拡がりをもつ通商の力強い拡大を前提としたものでした。・・・木材の通商は、とりわけフィンランド湾からアメリカのニューイングランド沿岸にかけての北の地域で通商革命の推力の一つになりました。(142ページ)

木の需要は造船と結びついていた

18世紀においては、木材の歴史は、明らかに造船と航海の側から繰り広げられていました。ある国が海運国として台頭するや否や、造船用木材の調達は政治上の問題となったのです。(142ページ)

19世紀ドイツの社会学ゾンバルトは木の時代の終焉を宣言

森を丸裸にした結果、18世紀に「資本主義の終焉」が目前に差し迫っていた。木材不足は、多くの危機的現象の本当の理由であった。しかし、石炭は資本主義を、さらにヨーロッパの文明的進歩そのものを救った、というもの(テーゼ)です。(161ページ)

彼(ゾンバルト)は「木の時代」から石炭の時代、金属の時代、そしてプラスチックの時代への移行の特徴は「有機体の世界」から「無機物の世界」への大きな転換であると記しました。(25ページ)

「木の時代」の終焉

燃料として、また道具や機械の材料として使われていた木材が押し退けられていく過程は、工業化の全体的な進行と関係するものでした。そしてそれは20世紀の半ばにまで達する長い過程だったのです。そのプロセスの始まりをとりわけはっきりと印しているのは、工作機械と鉄道です、「木の時代」の終わりは、決して産業革命の始まりと同じではありません。初期工業化は、それとはまったく逆に、木材と結びついた技術の頂点をもたらしました。(236ページ)

訳者あとがきより

われわれ日本人が石の文化と思い込んでいるドイツ・ヨーロッパ諸国にも木造建築やそれにまつわる木組みの建築技法などの木の文化の豊かな歴史と伝統があり、現代に引き続がれていることについて、我々はほとんど知らない。(345ページ)

我々の思い込み

わずか200年前は木材はエネルギー問題であり、資本主義の原動力となる戦略物質であった。木は政治的経済的に重大イシューだったのである。我々は木を自然環境保護という観点から見る。我々は「木の時代」があった事を忘れ、情緒に力点を置いてしまっている。

米国で1900年に創業されたウェアーハウザー社は今も世界有数の商業用針葉樹林の所有者であり、米国歴代富豪のランキング上位に登場する。ヨーロッパだけでなく地球そのものが「木材の時代」があった。更に俯瞰してみれば木材=炭素は生命の基本構成材料であり、木材を消費するという事は生物圏で炭素を循環させているに過ぎない。

蛇足

人間の乾燥重量の2/3は炭素で構成。

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