毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

乳牛の乳量を10倍にする遺伝子はあったのか?我々は豊かな遺伝子を持っている~『哺乳類誕生、乳の獲得と進化の謎』酒井 仙吉 氏 (2015)

哺乳類誕生 乳の獲得と進化の謎 (ブルーバックス)

 酒井氏は動物育種繁殖学の専門家、現在、地球上で最も繁栄している生物、哺乳類。生物にとって最も重要なのは、子孫を確実に残すこと。つまり、その繁栄のカギは「乳」というシステムにあった。(2015年刊)

 
 
乳腺はどうやって発現したか?

 

 

そもそも汗腺が出現しなければ哺乳類が恒温性を獲得することは不可能だった。汗腺にはアポクリン腺(皮脂腺)とエクリン腺(汗腺)がある。アポクリン腺の分泌物は脂肪とタンパク質、糖分、その他微量要素を含んでいる。役割は皮膚の保護と体毛の維持で、体温調節の役割は小さい。・・・一方エクリン腺からの汗は99%が水分で体温調節と関係する。・・・アポクリン腺が密集し、ここから分泌される物質がさらに栄養分に富んでいたら乳と呼べるであろう。(159ページ)

 

哺乳類は乳によって何が可能となったか?

 

 

出生直後から親と同じものを食べる種類がいないことからすると、哺乳類は全て未熟児での出産といえる。母乳は母親が体内でつくるもので、親の食べ物の種類と無関係である。動植物によって乳成分割合に違いはあるものの、基本的に必要となる成分は草食動物でも肉食動物でもかわわない。

 

 

また、母親は餌の獲得に長けていて何の不安もない。親と同じ餌を最初から食べたとしたら多くの哺乳動物は子育てできないだろう。(161ページ)

 

家畜にみる乳量の進化

 

 

(生物の)量的形質(身長、体重、適応力(生存性)、乳量、卵数など)ではこのような連続した分布となる。その理由は多数の遺伝子が関与するからである。たとえば身長に関係する遺伝子が何百種類あるか、何千種類あるか分からず、個々の遺伝子が担う役割を調べることもできないということである。・・・選択とは望ましい遺伝子の割合を高め、望ましくない遺伝子の割合を小さくすることであった。

乳牛は祖先の10倍以上の牛乳を、産卵鶏は30倍以上のタマゴを生産する。牛の祖先もニワトリの祖先も野性動物であり、数百万年、泌乳能力、産卵能力は変わらなかった。改良できたのは、もともとの能力があったからにほかならず、その潜在能力を人類は人為選抜によって引き出したに過ぎなかった。ここで大きな役割を担った遺伝子ではなく、小さな役割を果たす遺伝子が多数参画していた。(74ページ)

 

地球上で最も繁栄している哺乳類

 

我々は発汗により恒温性を手に入れた。著者はアポクリン腺が密集し、濃度が濃くなる事で名実ともに“哺乳類”になったのである。哺乳期間=未熟児状態だとすれば実質的に妊娠期間が延長されている事に気づく。なおかつ子は食物摂取を親に依存する事で確実に摂取できるのである。哺乳類が繁栄した一因であろう。

著者は畜産における品種改良の歴史から乳牛の泌乳能力は数多くの遺伝子が作用すると言う。乳牛は生物の歴史の中で培われた数多くの遺伝子の相互作用により、能力を10倍にした。哺乳類が乳の獲得を行った経緯と乳牛が泌乳能力を上げる過程が重なって見える。

乳量を増やす遺伝子はない

気づくべきは我々の一人一人に多様な遺伝子が組み込まれれいる事である。我々という意味は、生物、動物、哺乳類というレベルでも、そしてヒトという生物種、私というヒトとしての個体としても潜在能力と多様性を持っている。我々は豊かな遺伝子を持っているのである。

蛇足

 

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