毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

Livestock「生きた在庫」の意味を知っていますか?~『農業超大国アメリカの戦略』石井 勇人氏2013年

農業超大国アメリカの戦略: TPPで問われる「食料安保」

 石井氏は通信社出身、多様な側面から米国農業を徹底解剖する。 2013年刊

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農産物は変動する

 

 

人類にとって、穀物の豊作は望ましいことだが、人間の胃袋は急に大きくはならない。1日に一人が食べる量は安定している。農産物の豊作と凶作の変動に備える需給調整メカニズムがなければ、イワシの数が減ればクジラの数が減るように、豊凶の波に合せて人口が増減するしかない。穀物の豊凶の波をどのように制御するかは、人類の長い過大であり続けた。その解の一つが畜産業だ。(46ページ)

 

畜産業は調整弁

 

 

大豊作となり余剰となれば家畜に与え、凶作となれば家畜の数を減らして、人間が食べる穀物を確保する。漢字で蓄えることを意味する「畜」、英語でLivestock(直訳すると生きた在庫)と表記することに、その本質が示されている。(46ページ)

 

1974年、米国では豚が緩衝役

 

米国でも、旧ソ連による大量の穀物調達によって、ニクソン政権が大豆の禁輸に踏み切るほど穀物相場が上昇した1973年から74年にかけて、8000万頭以上の豚が処理された。平時には余剰食料を「飼料」として使い、食料不足になると「生きた在庫」を取り崩すという典型例であり、家畜が緩衝役を果たしていることがわかる。(47ページ)

肉を食べる、という事①

 

長い歴史の中で言えば肉とは、余剰が発生した穀物を肉に変えた物を食べるという事である。穀物余剰が発生している社会では皆が肉を食べられる。穀物の供給が急落した場合には蓄えられた穀物である肉を食べる事になる。肉を自由に食べられる、という事は穀物余剰が生じているという事の証でもある。

肉を食べる、という意味②

 

農業においては穀物を使って肉を生産するのは高付加価値戦略とも言える。

 

米政府は安くて付加価値の低いコモディティとしての「穀物」からより高い農産物の輸出への転換を急いでいるのだ。・・・当面最も付加価値の高い農産物の一つが畜産物だ。牛肉はある意味で「濃縮トウモロコシ」だ。・・・牛肉1㎏を得る為には7倍から11倍の穀物が必要になり、米国では主に飼料としてトウモロコシが使われてきた。(220ページ)

 

肉を食べる時考える事

 

肉は穀物が転化したものである。「今は余剰穀物が発生している、あるいは肉はビジネスにおける高付加価値戦略の一つ」という事に思いを巡らしてみる。違った視点が見えてくる。

蛇足

 

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