毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

伊勢神宮は遷宮で1300年の記憶の同一性を維持していた!~『日本美術を見る眼 東と西の出会い』

増補 日本美術を見る眼 東と西の出会い (岩波現代文庫)

高階氏西洋美術史の研究家、西洋とは違う日本独特の美学とは何か?2009年刊(1991年単行の文庫化)

 

 
伊勢神宮は20年ごとに新築を繰り返す

 

伊勢神は20年毎に従前と変わらないデザインで全ての社殿を造り替えて神座を遷す。(式年遷宮)第1回は690年(持統天皇4年)に行われ、戦国時代の120年以上に及ぶ中断や幾度かの延期などはあったものの、2013年の第62回式年遷宮まで、およそ1300年にわたって行われている。2013年(平成25年)の第62回式年遷宮全体の費用は、建築、衣服、宝物の製作を含め約550億円と公表。

 

伊勢神宮は築1300年?

 

 

現在の伊勢神宮の建物は、古いと言うべきだろうか、新しいと言うべきであろうか?日本の建築史では、伊勢神宮を古代の建物として扱っても少しも不思議を感じさせないが、西欧の論理から言えば、2013年(1973年から読み替えて表示)に建てられた建物を古代建築と考えることはとても出来ない。

 

どうやって記憶を保存するか?

 

日本人は、人間の記憶がはかなく頼りないものであるのと同様に、物質もまたほころび安いものだという洞察を持っていたからである。従って日本人は、物質の堅牢性を信頼する代わりに、物質もまたいずれは消滅するものだという前提に立って、なおかつ記憶の継承するいくつかのやり方を生み出した。(264ページ)

伊勢神宮のやっている事を西欧の視点から観る

 

 

型の継承や、土地、季節、行事と結びついた記憶の遺産は、堅牢なモニュメントを中心とする西欧社会とは違った形で、日本の文化の伝統を伝えるものである。・・・芸術家は、記憶の共同体の一員となることによって数多くの故人、先人と対話を交わし、その遺産を受け継ぎながら、自己の世界を創り上げていく。(278ページ)

 

記憶の連続性

 

我々の身体は物質の分子レベルでは常に入れ換えられ、1カ月もすればすべて入れ替わってしまうという。体は川の流れの水の様に、常に代謝する事で記憶の連続性を維持している。伊勢神宮も20年毎に建て替える事で1300年の記憶を継承している。物質の観点から見れば伊勢神宮は築20年、記憶の連続性から見れば築1300年。

西欧芸術は唯物論

 

(西欧の芸術は)「特にルネッサンス以降、それは他者から自己自身を切り離して、まさしくモニュメント的な自己完結的な世界を創り出す」と説明する。芸術はモニュメントという物質に封じ込められ、黄金比率、遠近法、などの技法を追求していった。芸術もまた唯物論的なアプローチであった。

現代は分子生物論的アプローチだけでは説明しきれない事が詳らかになった時代でもある。体を構成する人間の物質がすべて代謝しても、同じ人格である、と認めている。それは伊勢神宮を築1300年と認める事であると気づく。西欧芸術の視点は日本という別の認識様式の存在を明らかにする。

蛇足

 

芸術の多様性は認識様式の多様性

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