毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

我々はどこに公共的役割を担う舞台を持っているのか?~80年前の列車 の会話から思うこと、「思索の源泉としての鉄道」

思索の源泉としての鉄道 (講談社現代新書)

原氏は日本思想史の研究家、常磐線の断たれた鉄路はどうなっているか?2014年刊

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常磐線は今も全線開通していない、

車中の時局談義

 

「どうせなついでに早く日米戦争でもおっぱじまればいいのに」

「ほんとうにさうさ。さうすりあ一景気くるかもしらんからな、所でどうだいこんな有様で勝てると思うかよ。何しろアメリカは大きいぞ」

「いやそりゃどうかわからん。しかし日本の軍隊はなんちゅうても強いからのう」

「そりゃ世界一に決まつてる。しかし、兵隊は世界一強いにしても、第一軍資金がつヾくまい」

「うむ・・・」

「千本桜でなくとも、とかく戦というものは腹がへつてはかなはないぞ」

「うむ、そりゃそうだ。だが、どうせまけたつて構つだものぢやねえ、一戦争のるかそるかやつゝけることだ。勝てば勿論こっちのものだ、思う存分金をひつたくる、まけたつてアメリカならそんなにひどいこともやるまい、かへつてアメリカの属国になりや楽になるかも知れんぞ」

(1932年橘孝三郎による頃「車中で純朴その物な村の年寄りの一団」の車中時局談義より)

車中に乗り合わせた名もなき人々が将来を見通す

 

この時期には、石原莞爾のような思想家を別にすれば、日米戦争が起きるとは誰も予想していなかった。ましてや戦争に負け、事実上米軍からなる連合軍に占領され、独立回復後も安保体制のもとで「属国」同然の状態におかれることなど、一体だれが見通すことができただろうか。(169ページ)

これから思うこと①当時の日本人が考えていた事

 

日本がどうして米国との戦争を開始したか?原氏による橘孝三郎の引用がすべてを代表しているとは言えない。それでもな車中談義に驚かされる。「日本の軍隊はなんちゅうても強い」「思う存分金をひつたくる」。当時の日本軍を世界最強であり勝てば賠償金が得られると信じていた事に驚かされる。戦争は国際的なスポーツの様でもあり、経済的な活動の様にすら見えてくる。

これから思う事②車中という公共の場

 

原氏は車中や床屋や湯屋での大衆の方言は集団的無意識を反映させる事を指摘し、「日本ででは、サロンやコーヒーハウスの代わりに、鉄道の車中が果たした公共的役割に注目する必要があるだろう。」(169ページ)と説明する。

今も列車の移動中に時局談義が行われているのだろうか?通勤電車では皆がスマフォを操作している。長距離の新幹線やSNSでは時局談義が行われているのかもしれない。私自身は電車、列車、飛行機の車中で時局談義をした記憶がほとんど無い。結局はビジネスの話に収斂している。

車中だけでなく現代には公共的役割を担う舞台があるのであろうか?米国において公共サービスが民営化される中、どんどん公共的舞台が無くなっているのかもしれない。

蛇足

 

車中もまたメディアだった

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