感覚とは電気信号の集まりに過ぎない~書評「感覚器の進化」解剖学者 岩堀修明 氏
図解・感覚器の進化―原始動物からヒトへ水中から陸上へ (ブルーバックス)
嗅覚から感覚器に興味を持ち本書を手に取る。岩堀氏は解剖学が専門、感覚器を生物進化、発生論の視点から説明する。
すべての感覚は活動電位の変動である。
どんな感覚器があるか?
感覚が成立する為には、光、音、においなどの「刺激(感覚刺激)」がなければならない。しかしいくら刺激があっても、これを受取る器官がなければ、感覚は成立しない。刺激を受容する器官を「感覚器」という。・・・感覚器とは、刺激を電位変化という「電気信号」に変換するはたらきをする器官である。・・・感覚器から情報が与えられることにより生ずる印象が「感覚」である。・・・刺激によって生じる感覚は、刺激の性質によって決まるのではなく、どの受容器が刺激されるかによって決まる。(17-22ページより抜粋)
感覚の違いは脳が知覚する
色を考えてみる。ヒトは可視光線の範囲しか感覚器は受け止めない。色は可視光の組成の差によって生じる。可視光線そのものに色がある訳ではなく、ある色を「赤」と知覚するのは感覚器ではなく中枢神経(脳や脊髄)である。我々の感覚器は限られた感覚しか感じる事ができず、複数の感覚を統合して知覚する事で複雑なイメージを産んでいる。感覚は決まった反応しか出来ないにもかかわらず複雑な情報を処理できるのは結局の所脳に働きに帰着する。
著者は生物進化に沿って、各感覚器の特徴を説明する。
視覚器
目は無脊椎動物では皮膚から作られる。脊椎動物では脳から作られる。
味覚器
この世界を最初に感じた最も原始的な感覚器は「舌」の祖先だった。
嗅覚器
動物が水から陸にあがるとき、呼吸器と嗅覚器は一つになり「鼻」となった。
平衡・聴覚器
耳とは重力を感じる平衡感覚器の中に、後から聴覚器が入りこんだものである。
体性感覚器
皮膚は多様な感覚を受容する最大の感覚器である。筋・腱・関節も意識に昇らない感覚を受容する。
奥行きの深い表現
各感覚器の説明は奥行きの深い、ある意味哲学的な意味を帯びている。生物は環境から刺激を受ける。感覚器は環境に併せて独自に特化し、様々な感覚器が生じた。様々な感覚器がありながら、どんな刺激も電気信号に変えられる。電気信号に意味づけするのは脳の働きである。我々は電気信号の集合にクオリアを見出している事になる。
蛇足
意識に昇らない感覚が存在する
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