毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

人類は3500年以上前のメソポタミアから発酵パンを食していた~なぜキリスト教の祭事ではあえて無発酵パンを使うか?

パンの文化史 (講談社学術文庫)

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94ページトゥワン遺跡(肥沃の三日月地帯)

 
発酵パン

パンが膨らむ為には次の条件がいる。まずそのパン生地を発酵させること。さらにはパン生地に多少なりとも小麦粉が混じっていること。・・・コムギタンパクは、水を吸わせ、強くこねると、弾力を帯びてガムのようになる。このタンパク質の混合物がグルテンと呼ばれるものである。グルテンをガスで膨らませれば、風船のように粘着する。すると生地中の酵母菌によって生じた炭酸ガスが、グルテンをゴム風船のようにふくらまし始める。(65ページ)

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左:発酵前、右:発酵後。パン生地が膨張している。パン工場(ヤマザキパン)

酵母菌が生成する炭酸ガスが膨張させる

酵母菌がパン生地に入ると、酵母菌は生地中の麦芽糖を取り込み、炭酸ガスとアルコールに分解しながら、増殖していく。一方、政治の中では、その炭酸ガスグルテンをふくらませ、無数の気泡を作る。この状態が発酵である。(66ページ)

パンに使う酵母菌をイーストと呼ぶ

イーストという語はギリシャ語の「沸騰する」にちなんでいる。そしてパンはゲルマン語ではブレッド(英)、ブロード(独、オランダ)、ブロー(北欧一体)。原意は「ぶくぶく泡立つ」。どちらの言葉も発酵の様子を現したものである。・・・野性の酵母菌は何百種類もあり、カビの親類でもある。・・・そして増殖に快適な温度は、摂氏28-32度で、38度以上になると弱り、60度で死んでしまうという特徴がある。(67ページ)

発酵パンはふっくら

発酵パンの世界においては、文化史とは、いかにふっくらしたパンを作るか、という目的を終着点として、その線上をひた走ってきた発達の軌跡であると言ってもよいだろう。発酵パンは美味しいという快さ、しかし発酵には不浄という後ろめたさ、これが表裏一体をなしているのである。(85ページ)

発酵パンと腐敗菌

19世紀以降、工業的に酵母菌、イースト菌だけを培養し、パンを発酵する種として使う。それ以前はパン生地の中で自然に存在する酵母菌、乳酸菌、腐敗菌の中から、乳酸菌による酸により腐敗菌が死滅し、酵母菌と乳酸菌だけになったサワー種を使っていた。パンの発酵には不浄という後ろめたさ、という意味は腐敗菌の混在が前提となっていた。

f:id:kocho-3:20141017080909p:plain最後の晩餐 (レオナルド) - Wikipedia

発酵パンとキリスト教

キリストの最後の晩餐の「これ(パン)はあなたがたのために与えられる私の体である」という言葉によってパンはキリスト自身と見做されている。従ってキリスト教文化圏では不浄とつながる発酵パンを使わない。旧約聖書では繰り返し「無発酵パンでなければならない」(81ページ)ある事が要求される。逆に言えば旧約聖書の時代から発酵パンが普通であったという事。宗教だから日常と違う事を要請するとも言えるし、旧約聖書はパンの歴史に比べれば短い歴史しか持たないとも言える。メソポタミアの人々はパンコムギが栽培される様になった後、遅くとも3500年以上前から美味しい発酵パンを食べていた。

蛇足

日本語「パン」の由来はポルトガル語ラテン語由来。