毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

高級機械式時計の代名詞、クロノメーターはいつ何の為に生まれたか?~我々はわずか250年前経度を知る方法を知らなかった

経度への挑戦 (角川文庫)

大航海時代を経た18世紀ヨーロッパでは、不正確な経度測定に起因する遭難事故が続発。イギリスは問題の解決に高額の賞金が設定、天文学者がこぞって天体の運行に答えを求める中、無名の時計職人が名乗りを上げた。(2010年刊)

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1714年英国では経度法が制定され破格の賞金が用意

西インド諸島までの航海で経度誤差が2分の1度以内の精度で決定する方法:2万本ポンド(現在の数百万㌦に相当)

 

経度の測定は時間に支配されている。海上で自分がいる場所の経度を知るには、船上の時間と母港など経度がわかっている場所の時間がわからなくてはならない。この2地点の時差がわかれば、それを地理的な隔たりに換算することができる。地球が1回自転する、つまり360度回転するのに24時間かかる訳だから、1時間に回転する角度は360度の24分の1、つまり15度だ。船上の時間と出発時点の時間が1時間違っていれば、船は15度進んだ事になる。(11ページ)

 

2分の1度の意味は日差3秒

時計で言うなら、24時間で3秒以上の狂いが生じてはいけないのだ。それは簡単に計算をすればすぐにわかる。経度2分の1度とは、イギリスからカリブ海にわたる6週間の航海で許される最大の誤差であり、時間にして2分に相当する-40日間で2分のずれということは、割り算をすれば一日あたり3秒となる。

 

どうして船上で時間を測るのが困難だったか?

振子時計の時代には極めて難しいことだった。揺れの激しい船上では、振子時計は遅れたり進んだり、時には完全に止まってしまうからだ。寒冷地を出発して熱帯に向かったりする時は、気温の変化によって時計の潤滑油の粘土が変わるし、金属部分が膨張・収縮して正確に動かなくなる。気圧も変動するし、緯度の変化にともなって重力が微妙に変われば、やはり時計の動きは不安点になる。

 

クロノメーターの登場

船の揺れや温度変化に影響されない、高精度な携帯用ぜんまい時計、ギリシア神話の時間神クロノスに由来する。(Wiki)

f:id:kocho-3:20140707072111p:plainジョン・ハリソン (時計職人) - Wikipedia

大工出身の時計職人、ジョン・ハリソン(1693 – 1776)は1735年タイプH1を開発し、基準を達成した。(測定が西インド諸島ではなくリスボンへの航海だった為、賞金は授与されず。)その後、タイプH2、タイプH3、そして1760年懐中時計のタイプH4を完成し、ここにクロノメーターが登場する。

 

 

 

ジョン・ハリソンが精度を出せた技術的特徴は①歯車に温度変化し難い木材を使った、②グラスホッパー脱進機を発明(ゼンマイの力を高精度の周期に変換)、③バイメタルの発明(異種金属を張り合わせ温度変化を数値化)、④歯車の軸にダイヤモンドを使用(オイルレス)。

ハリソンのライバルは天文学者

天文学者達は長年にわたって高精度の時間計測は不可能なので、月又は金星の位置から経度を測る事を提案していない。しかしながら船の上で正確な天体観測を日中も含め行う事は困難な事から実現する事が出来なかった。最終的にハリソンのクロノメーターが経度を決めるスタンダードとなった。

 

天文学者は論理的アプローチ、ハリソンは観測技術の積み上げ。木材の歯車をカーボンの歯車に置き換えてみる。彼の技術的アプローチは我々にもよく理解できる。現在の機械式時計の精度は日差±3~5秒、ハリソンの達成した精度は現在でも十分通用する。

 

一方多額の賞金まで用意する程の経度を知る事の困難さを実感できない。我々は正確な時間と無線のある生活に慣れているから。目印の無い空間で、時刻がわからず、連絡方法もない、場所と時刻を特定する事は出来ない。

蛇足

携帯電話を持たずに待ち合わせをする事を想像してみる。