毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

今、生命誕生のシナリオがパラダイム・シフトしようとする時代~我々のアプリオリ(自明の理)をバージョンアップする為に知っておくべき事

 

生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像 (講談社現代新書)

  

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80ページ:地球冷却と地球の秩序化

生命誕生のシナリオの解明

人類の知的好奇心を刺激して止まない大きなテーマである。中沢氏は地球における生命の誕生を必然と考え「地球軽元素進化系統図」というシナリオを描いた。中沢氏は2つの従来の自明の理(アプリオリ)を否定し、2つの中沢氏の仮説を提案している。

 
アプリオリ①「生物は進化するもの」の否定

「生物とは進化するもの」とアプリオリに考えてきた。しかし地球上に有機分子が出現して進化した帰結としての生命の発生がり、生物の誕生後に生物の進化があるのですから、「分子や生物の進化」にも進化しなければならない必然性、それも共通の必然性があるはずです。(54ページ)

 

私の理解は物質の進化と生物の進化は熱力学第二法則エントロピー)で一直線につながっているという視点で生命誕生のシナリオを描く。

 

アプリオリに「生命の母は太古の海である」の否定

代謝や遺伝機能を既に具備した“生物”が、比熱が大きくつねに穏やかな大量の水の中で進化したことは確かです、エネルギー代謝もエントロピー代謝も遺伝も、生命機能はすべて化学的には穏やかな水溶液反応でできように進化しているからです。しかしだからといって、生命になる前の無生物の“分子”も、穏やかな水の中で“自然に”進化したとする根拠尾はどこにもありません。(200ページ)

 

「生命発生に必要な有機分子は原子地球の激しい降雨現象の中で雷によって準備されたであろうと、現在でも多くの教科書に記載」(138ページ)、私自身この説明は著者同様違和感を感じてきた。雷の発生により局所的には有機分子は組成されても大海で希釈されてしまう一時的な現象に過ぎない。

 

仮説①有機分子・ビックバン仮説

生命の素となる他種多様の有機分子は、40~38億年前、“後期重爆撃”の隕石海洋衝突によって生成した。(180ページ)

 

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隕石衝突模擬実験(火薬により高圧を発生)によりアミノ酸の生成を確認

なぜ生まれたのか? なぜ進化したのか? 科学史上最大の謎が今解き明かされようとしている! 現代新書『生命誕生』 著者 中沢弘基氏インタビュー | 現代新書カフェ | 現代ビジネス [講談社]

 

仮説②生物有機分子の地下深部進化仮説

アミノ酸や核酸延期などの生物有機分子は、還元的な海洋堆積物の続成作用による高圧・高温の脱水環境で“自然に”重合して高分子になると推定されるのです。(216ページ)

補足すれば還元的とは酸化の逆で酸素が分離する事であり、続成とは海底の堆積物が地層を形成する事。

地地球は冷えつつあるという事が中沢氏の仮説のバックボーン

地球は46億年前に誕生時の熱が宇宙に放出され、地球は冷えて言っている。最終的には絶対零度になりすべてが凍りつく。46億年前すべてが溶していた地球が冷えて地球の核、マントル、地殻に分離していく、地球の軽元素が重元素から分離をしていく過程と捉えており、物質・生命の進化もまったく同じ方向性を持っていると考える。

中沢氏は本書をウェーゲナーの大陸移動説から始める

1912年ウェーゲナーは過去地球上には超大陸パンゲア一つが分離して現在の大陸になったと主張した。プレートテクニクスもまた「地球の熱放出による秩序化」の一こまとして解釈できる。「固体地球も、すべからく進化は熱力学第二法則に従った現象だ、と言う着眼」=地球軽元素系統図という発想につながる。中沢氏は化学、地球物理、量子力学、進化論と幅広い背景と先達の成果を下にこの仮説を構築し、その証明に動いている。中沢氏の仮説は1993年英雑誌「ネイチャー」に仮説のみであると掲載を拒否された。科学はアプリオリなものを否定する力を持つなら、中沢氏の仮説も相応の時間を経て、受容される事になると考える。

蛇足

本書をリアルタイムに日本語で読める幸せ。