毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

チェラプンジの橋を知っていますか?~バイオテクノロジーと人類の接点を考える為に

 バイオパンク―DIY科学者たちのDNAハック!

「21世紀のイノベーションは、生物学とテクノロジーが交わる場所から生まれるだろう。ぼくが息子の年頃にデジタル時代が始まったのと同じように、新しい時代がまさに始まろうとしているんだ」f:id:kocho-3:20140702080629p:plain

 

 

2010年、合成生物は誕生していた

バイオテクノロジーのパイオニア、Jクレイグ・ヴェンターは2010年5月、初の合成生物を作成したと発表した。DNAを人工的に一文字一文字つなぎ合わせて作った自己複製するこの微生物は、シンシアと名付けられた。シンシアのゲノムは全長およそ110万文字だ。ベンダーはこのDNA合成に膨大なエネルギーと資金を投じた。だが周囲が騒ぐほど膨大なリスクを賭けた訳ではない、と冷静に見る合成生物学者もいる。ベンダーは自分の創作物を「起動」するとき、それが動くという確信がそこそこあったはずだ。なぜならシンシアは既に自然界に存在する細菌をそっくり真似た模造品だからだ。自然界に存在しない微生物を一文字一文字つくり上げた科学者はまだいない。(214ページ)

 

我々の生命を書く言語はまだ不足している

本書によれば現在の遺伝子工学で設計できる情報量は1000文字程度、大腸菌程度の合成生物を設計する為には350万文字が必要であり、生命の言語を書く能力がまだ足りないと説明する。なぜなら「遺伝子工学者がどれほど創造性を発揮してみたところで、自然界が作った精密な生き物にはとうていかなわない。~単細胞の微生物であっても、生命誕生から数十億年の時を経て進化を重ねてきているのだから」(223ページ)。

 

著者は生物と人との関わりで比喩的な表現を使う。

チェラプンジの橋~生物学を通じて実用的で持続可能な利用方法の可能性

(インド北東部の)水の多い地域に橋は不可欠だが、チェラプンジの橋が特別なのはそれが活きている事だ。この地にある多くの川では、土手に沿ってインドゴムノキが多くの「不定根」を生やし、岩の上や地表にしがみついている。住民はその根が反対側の土手に届くよう、別の樹木の幹を使って不定根が伸びる方向を導いてやる。反対側に届いた根をこんどは空中に晴らせれば、それが橋になるというわけだ。根が成長を続けると、橋はどんどん頑丈になる。(216ページ)

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インドで「成長し続ける"生きた"橋」500年という時間が創った、妖精の国の風景 | DDN JAPAN

 

コンピュータと遺伝子工学の共通点

我々の周囲に数十億年かかって編集されたDNAが存在する。そしてこのDNA自体が今も編集、更新中であるという事。コンピュータがストロングAI(人工知能)になる可能性が小さいのと同様、本質的な意味で人類が合成生物を生み出す事は出来ないと理解した。コンピュータがストロングAIにならなくても人々の生活を変えた様に、遺伝子工学にも沢山の可能性がある事もわかる。

 

蛇足

人々はインドゴムノキを利用していのか?インドゴムノキに利用されているのか?考えてみる。