毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

100年前のSF「解放された世界」から分かる事~未来は常に存在している、思考実験が教えてくれる

解放された世界 (岩波文庫)

HGウェルズ著、本書扉より「1950年代.局地的な紛争が世界戦争へと発展,原爆投下によって大惨事がひきおこされる.そして,戦争と国家から解放された新世界秩序に基づく,人権による世界国家成立への動きがはじまる…原爆と核戦争の危険性を予見し、日本国憲法の原点にもなった思想小説。1914年刊」

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1913年の科学的背景①放射線

彼がそれを書いた当時、フレデリック・ソディ教授の「ラジウムの解釈」をHGウェルズほどに深く読んだ者は、一流の科学者をも含めほとんどいなかったであろう。ラザフォード・ボーアの原子モデルがまだ存在していなかったことを思えば、それは一層脅的である(リッチーカルダーによる序説13ページ)

ソディとラザフォードは放射性元素の特異な性質が、他の元素へと崩壊することによって起きることを明らかにした。この放射性崩壊はアルファ線ベータ線ガンマ線を発生させていた。

1913年の科学的背景②特殊相対性理論

ウェルズはアインシュタインの1905年の方程式E=MC^2を深く理解していた。この方程式は質量がエネルギーに転換されうること、従って、原子の核分裂がエネルギーを放出することを意味する。(リッチーカルダーによる序説16ページ)

アインシュタインは電磁気に関するマクスウェルの方程式を、光速不変の原理を導入することで運動座標系における電磁気現象を静止座標系におけるマックスウェル方程式に帰着させる理論を提唱した。

 

シラードによる“連鎖反応”式原子爆弾のコンセプト

1933年春、「産業規模での原子力の開放について語る者は、夢のようなことを言っているに等しい」というくだりがあった。シラードはHGウェルズの「開放された世界」を思い出したという。たぶんそれはビスマス粒子が連鎖反応を起こしてエネルギーになるというあの場面であろう。シラードはロンドン市内の交差点を渡ろうとしたとき、“連鎖反応方式”のアイデアが閃いたという。彼はその結果の意味するところを既にウェルズの「開放された世界」を読んで知っていた。(訳者浜野輝氏、本書376ページより再構成)

 

ウェルズの「解放された世界」は放射性物質の存在、質量とエネルギーは等価、という科学的知見を、原子力エネルギーの解放という思考実験を行った結果である。「本書」と「原子力エネルギーの解放としての原子爆弾」、の間でコンセプトが一致するのは当然である。ウェルズは1914年当時、第一次世界大戦の前夜である1914年当時、世界国家樹立の為の軍事力として原子爆弾を位置づけた。

 

蛇足

「解放された世界」は予言書ではない。