毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

1628年ハーヴィは実験により血液循環説を主張~ファクトの集積とプレゼン手法の確立

 ウィリアム・ハーヴィ―血液はからだを循環する (オックスフォード 科学の肖像)

科学史の研究家ギンガリッチ氏の編集による化学的な伝記。「シェイクスピアが活躍した劇場ブームの最中、ヨーロッパ初の室内解剖劇場が建てられたパドヴァ大学に留学。その後イングランド王の顧問医を務めるかたわら、1628年『動物の心臓と血液の動きに関する解剖学的研究』を発表、実験による科学的論証で血液は体内を循環することを証明。古代からルネサンスまでつづいたヒト生理学を覆し現代科学のルーツを築いたハーヴィの評伝。」

1628年ハーヴィは血液はからだを循環する、と発表

血液は、どこかに流れ着きそこで破壊されるわけではなく、どこから作られ、そこからながれてくるわけでもない。つまり血液は循環しているのだ。(79ページ)

 

現代の我々には当たり前すぎてどうしてこう考えないのか理解できない。

 

当時の医学はBC5世紀のヒポクラテスとAC2世紀のガレノスの知識がベース

(当時の)医学過程のほどんどは、あの伝説のヒポクラテスと古典医学の巨星ベルガモンのガレノスの手になる最古の総合医学論文の思想と実践を学ぶ事だった。ヒポクラテスは紀元前5世紀のギリシャの医師、ガレノスは紀元2世紀に現在のトルコ(そのころはローマ帝国の一部)やローマで活躍した医師である。ガレノスの理論が長く廃れなかった理由は、彼がアリストテレス自然哲学を完璧に理解し、それを土台にして当時の内科と外科のすべてを網羅した矛盾のない医学理論をつくりあげることに成功したことにある。(23ページ)

ハーヴィは単純だが説得力のある実験によって自説を証明

ハーヴィは人の腕を使った止血帯の実験を読者に紹介し、静脈の血液が動脈からながれてきていたものであると証明している(中略)止血帯を非常にきつくすると、動脈と静脈の両方が圧迫されて、腕に流れ込む血液も腕から出る血液も完全に止まるが、止血帯をほどよくゆるめると、(論理的に考えれば)動脈のほうが、静脈より深い位置にあるために、血液は動脈をとおって腕に流れこむことはできるが、静脈をとっおって出て行く言はできないとなる。(82ページより再構成) 

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「動物の心臓と血液の動きに関する解剖学的研究唯一の挿絵

血液が静脈に滞留し腕が膨れる(61ページ)

 
ハーヴィのなし遂げた事、「実験」の実施

彼の本は科学研究に方法を大きく変える教科書の一つとなった。ハーヴィが実験を使った事から、将来の「新しい科学」の胎動は始まった。

(実験により)多様な哲学的、宗教的背景をもつ人々が自由に科学を論議することができるyようにして、「自然哲学(今の言葉では科学)」に説得力を持たせることに成功した。

どうしてこの実験に至る事ができたのか?

ハーヴィはあらゆる種類の動物を調べた結果を利用した。そして人間を例外としない為、人体を使った誰でもできる実験を行った。既存の知識体系が完璧であるからこそ、徹底的に反証に打ち勝つ実験結果と再現性のある実験方法を提示した。それでも自助論のスマイルズによればハーヴィは「聖書を覆し、教義を乱し、倫理を破壊する詐欺師」と同時代の人びとに謗られた。

蛇足

ファクトを集めプレゼンをする、我々が毎日やっている事