毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

最初の原子崩壊はどうやって観測されたか?~質量とエネルギーの等価性の証拠

アーネスト・ラザフォード―原子の宇宙の核心へ (オックスフォード 科学の肖像)

本書は原子物理学の父と呼ばれるラザフォード(1908年ノーベル化学賞受賞)の評伝、ラザフォードがケンブリッジ・キャヴェンディッシュ研究所所長として核分裂に取り組んだ経緯に触れている。

 

高いエネルギーを持つ原子と電子を求めて

1927年ラザフォードは高いエネルギーをもつ原子と電子の提供をよびかけた。原子核の研究で人工の高速粒子発生源が求められた理由は、天然の発生源では十分な数の粒子が得られなかったためである。原子無いで原子核が占める領域は極めて低い。(160ページから再構成)

必要なエネルギーのモデル~トンネル効果

ガモフは新分野の量子力学から、ひとつの重大な結論を導き出していた。粒子は、従来の物理学で算出した値より低いエネルギーでも、原子核を通り抜けたり原子核から飛び出したりすることができるというのである。この「トンネル」効果をビリヤードにたとえると、クッションにあたったボールがクッションを壊すこともなく通り抜けるという。(161ページ)

高電圧を発生させる電気回路=コッククロフト・ウォルトン回路

30万ボルトを発生させて維持する装置を完成させ、首尾よく陽子が原子核を分裂させるだけのイオンすなわち陽子を水素ガスから発生させ、首尾よく陽子が原子核を分裂させたときに起こるあらゆる事を観測する手順を整えるのに、ガモフが加わってから3年以上かかった。(161ページ)

 f:id:kocho-3:20140303072540p:plain(163ページ)

研究室の一室に設置された陽子加速装置、右側のシリンダー内の上から下に陽子が加速。

 

1932年キャヴェンディッシュ研究所で起きた原子核の崩壊~E=MC^2の証拠

原子番号と陽子の数は一緒なので陽子3個のリチウム原子核と陽子1個の水素陽子が衝突して陽子2個のヘリウム陽子が2個できた、最初の原子核の崩壊である。この時質量の総量が0.2%だけ減った事が観測された。この0.2%はE=MC^2でエネルギーに換算すると、衝突の時に放出されるエネルギーと一致した。原子核同士が衝突しエネルギーが大きく変化したから測定できた。これがアインシュタインが1905年に発表した「質量とエネルギーの等価性およびその定量的関係」の最初の具体的証拠であった。

 

老婆心なE=MC^2の補足

Eはエネルギー、Mは質量、Cは光速。光は質量を持たないのに、エネルギーを移動させられる。エネルギーが変化したら質量は変化している。だから質量とエネルギーは同じもの。

 

蛇足

約80年前の陽子加速器の装置はシンプルなので実感がわく。

(現代のCERENの加速器の予算は5,000億円。原理は一緒、巨大になっただけ。)