毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

宗教としてのイスラームの持つテクノロジーの強み

 

 イスラム帝国

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世界史図説ヒストリカより

610年ムハンマドが布教を開始し、短期間で、8世紀半ばにはピークを迎える。東西交易、農業灌漑の発展によってアッバース朝は繁栄し、首都バクダットは世界最大の都市だった。アッバース朝では、エジプト、バビロニアの伝統文化を基に、インド、アラビア、ペルシャ、中華、ギリシャ、などの諸文明の融合がなされたことで、学問が著しい発展を遂げ、近代科学に多大な影響を与えた。(Wiki)イスラム帝国の基盤の一つがイスラームであろう。

 ムハンマド―イスラームの源流をたずねて (historia)

小杉氏はイスラムの研究家。本書において「一人の人間であるとともに、大きな思想現象として人類史に衝撃を与えたムハンマドの核心」を論じている。 

ムハンマドは何をもたらしたか?

ムハンマドが人類にもたらした新たな理念、概念、装置の第一は、疑いもなく純粋な一神教であろう。イスラムはユダヤ教、キリスト教と姉妹宗教であり、私たちはこれらを総称してセム的一神教と呼ぶことが多い。しかし、いくたの研究が明らかにしているように、神の唯一性、絶対性を決定的に強調したのはイスラームである。(188ページ、一部再構成)

その行動様式

預言者としてのムハンマドと彼に従った信徒たちが、「啓示を受け取って、世界宗教としてイスラームを確立する」という思想実現をダイナミックな共同行為として行った。(183ページから再構成)

その聖典クルアーン(コーラン)

クルアーンという装置の卓見性は、クルアーン=「読まれるもの/詠まれるもの」としたうえで、啓示がアラビア語で下されたことを前提として、聖典の原型を維持するようにした方法は、聖典の概念として類例をみない。(中略)アラビア語の啓典を共有することでイスラーム世界の一体性の確保された。さらに、啓典を基盤とするイスラーム法が、民族の違いを超える法としてイスラーム世界の一統一性を保つ仕組みをつくっているが、これもアラビア語を知的共通語とすることで可能となっている。(中略)クルアーンは不思議な様式を持っている、クルアーンに書かれているのは、ムハンマドにもたらされた啓示だけであり、(中略)一冊の本が、最初から終わりまで「神の言葉」だけである、「啓示に基づく啓典」を提示する舞台装置としてじつに精緻な構成になっている。(191ページから再構成)

世界宗教としての地位

クルアーンの場合、多様な宗教が世界にあると明示した上で、世界宗教の役割を語っている点に特徴がある。(中略)ムハンマドは明らかに、自分がもたらした宗教が人類全体へのメッセージであることを強く認識していた。広大な地域に広がったから、結果として世界宗教になったという訳ではない。(194ページ)

現在のイスラム教

7世紀のイスラム帝国の時代まで遡まらなくても、現在16億人の信徒があると推定、キリスト教に次いで世界で2番目に多くの信者を持つ宗教である。一神教、ムハンマドクルアーンというシンプルな構成で、強い影響力を持っている。私は「宗教を文明的なテクノロジーの一種=世界を解明する概念装置」(186ページ)という見地からその効率的に驚く。