毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

進化論と経済政策、どちらの議論もどうして収斂しないのか?~『進化論の最前線』池田清彦氏(2017)

進化論の最前線 (インターナショナル新書)

 池田氏構造主義生物学の研究家、進化論はどこまで説明できるか?(2017)

ネオダーウィニズムの限界

ネオダーウィニズムという学説の大きな柱は「突然変異」と「自然選択」ですが、遺伝子にどれほどの変異が起こったしても、大進化が起きるという保証はありません。つまり、「自然選択」と「突然変異」だけで新種ができるということは、確定的な科学的事実ではないのです。(20ページ)

細胞内共生

生物の系統樹を作製するうえで、かつて最も困難であったのは「原核生物から真核生物への進化をどう説明するか」でした。・・・細胞内強制説とは、真核細胞の中にあるミトコンドリア葉緑体などの細胞小器官は、細胞内に共生化した原核生物に由来するという仮説です。共生した生物の起源は、ミトコンドリアが好気性性細菌、葉緑体がシアノバクテリアだと考えられています。・・・・ミトコンドリア葉緑体が、もとももとは独立した生物であることを示唆している証拠は、他にも「それぞれ独自のDNAをもち、そこにはミトコンドリア葉緑体のタンパク質をつくる遺伝子の一部が含まれている」ことや、「どちらも二重膜で包まれている」ことなどが挙げられます。(135ページ)

(アメリカの生物学者リン・マーギュリス(1938-2011の)唱えた細胞内共生説は、「生物間の協調」を重視した考え方です。細胞内共生は突然変異と自然選択により生じたわけではなく、いわばアクシデントの結果生じたものです。(136ページ)

構造主義進化論

構造主義とは、簡単に説明しますと「表面に現れているあらゆる現象の背後には、必ず何らかの深層的な構造が存在する」という考え方です。・・・私は、この構造主義を進化論に当てはめて生物の進化を理解する「構造主義進化論」を提唱しました。・・・同じ遺伝子が発現する場合でも、細胞内部や周囲の環境によって発動する機能に変化が生じてくるからです。(112ページ)

進化論の最前線

ミトコンドリア葉緑体の細胞内共生説はネオダーウィニズムでは説明ができない。生物の進化は暫時起こったというより、突然短期間に起こったと考えないと説明のつかない事象がある。細胞内共生説だけでなく、本能の獲得、生物の形態の変化などもまた突然進化が発生したと考える方が説明しやすい。

結局進化の時間軸を、何をもって短期と見るか、どこからが長期とみるかによって進化論の説明が随分変わってくる。更に言えば時間軸の短期・長期は、相対的なもの、安定的な環境と目まぐるしく変化する環境では一定時間の持つ意味は同じではない。

進化論を語るとき、どこまでが短期で、どこから先が長期か、これを一致させないと議論が深まらない。これはまるで短期的な経済成長か、長期的な構造改革か、どちらが重要かという議論がかみ合わないのと一緒だと気づく。だから進化論も経済政策も議論が収斂しない。

蛇足

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still lifeの意味を知っていますか?~『美術の誘惑』宮下 規矩朗氏(2015)

〈オールカラー版〉 (光文社新書)

 宮下氏は美術史家、美術は政治経済と深く関わり、生老病死を彩り、人の欲望や理想を反映する―。(2015)

 

 

木苺の籠

近寄ると絵の具の盛り上がりや粗い筆触が目立つばかりで、とくに訴えかける力はないが、見てみるとしみじみと心に入ってくる気がした。・・・シャルダンの静物画には神々しさも説教臭さもない。原罪の象徴である果物や、聖母の純潔を象徴する水の入ったグラスを繰り返し描いていても、そこにはキリスト教的な寓意はほとんど感じられない。・・・美術の精神性は、宗教性や教訓を持たなくとも、静物や山水のようなごく普通の主題を素直に表現したものにも見出せるのではないか。それは抽象絵画の精神性のようなものともちがう、見る時期によって自然に心に入ってくるような微弱で繊細な力である。(184ページ)

美術にできること

美術はあらゆる宗教と同じく、絶望の底から人を救い上げるほどの力はなく、大きな悲嘆や苦悩の前ではまったく無力だ。しかし墓前に備える花や線香くらいの機能は持っているのだろう。とくに必要ではないし、ほとんど頼りにならないが、ときにありがたく、気分を鎮めてくれる。そして出会う時期によっては多少の意味を持ち、心の明暗に寄り添ってくれるのである。(186ページ)

 

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http://mimt.jp/exhibition/pdf/outline_chardin.pdf

美術の誘惑

宮下氏は大学卒業予定の一人娘を病気で亡くす。その死の直前に美術史家としての職業的義務感から観た画家シャルダンの展覧会での出来事をエピローグに綴っている。シャルダンは老齢になってから跡継ぎの一人息子を失くしている。この静物画に「寡黙な画面には大きな悲しみが塗りこめられていた」(184ページ)という。宮下氏は美術品にも出会う時期があるという。美術館には様々な絵がある。そこには画家の、あるいは発注者の様々な意図が表現されている。

宮下氏は美術が“心の明暗に寄り添ってくれる”、という。美術は世の中に必要だろうか?誰にでも美術を必要とする微かな一瞬があるのである。

蛇足

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人間にしかできないことは何か?~『人工知能の核心』羽生善治氏(2017)

 人工知能の核心 (NHK出版新書)

羽生氏は棋士、 電王戦を中心としたコンピュータ将棋と人間の棋士の間で起きている様々な事象が、今後、人口知能が社会で応用されていくときに想定される事態を先取りしているように思えることです。(35ページ)

 

人口知能の特徴~ブラックボックス

本質的には人間には理解できないような答えを人口知能が提示してくる場合も考えられます。・・・抽象的な世界なので気づかれにくいですが、人間の身体が物理的な制約を受けるように、思考にも制約はあるのではないでしょうか。(37ページ)

人口知能には恐怖心がない

棋士がしばしは口にする感想に、「将棋ソフトの指す手には、人間から見ると、違和感を覚える手が多い」というものがあります。・・・人間の持つような盲点がない分、自由に手を選べるということでもあるでしょう。・・・・特に人口知能ロボットのような事例を考えてみると、「恐怖」を覚えないのは社会生活を営む上で、そもそも困難を来すように思います。(39ページ)

人口知能が広げる人間の“美意識”

私たち棋士が現在見ているのは、将棋のほんの一部の可能性で、全体からすればとても狭い領域にすぎません。そのなかで私たちは、自分たちの経験から培った「美意識」を働かせて、・・・「直観」や「大局観」で感じているだけですから、自分たちの知らない世界に十分に「良い手」が存在している可能性はあるのです。・・・そして(美意識というフィルターから盲点となっている)そこにスポットライトを当てただけでも、将棋ソフトや人口知能の意義は非常に大きいと言えるのではないかと、私は考えています。(82ページ)

人口知能にできないこと

人口知能は、データなしに学習できない存在だということです。とすれば、データが存在しない、未来の領域に挑戦していくことは、人間にとっても人口知能にとっても、大きな意味を持つと思います。(216ページ)

棋士の未来

棋士が将棋に強くなるには、将棋ソフトの強さを深いところで理解すること、さらにはプログラミングの素養すら基礎体力として求められるようになる時代も遠くないかもしれません。(213ページ)

人口知能の核心~人間にしかできないことは何か?

本書により将棋の世界が人口知能の影響を強く受けていることを知る。人口知能と付き合う棋士は何を感じているのか?人口知能の思考回路を理解することはできず、人間の持つ盲点を考慮しない不気味さを持つ。一方でこれらが確実に将棋の可能性を広げている。

羽生氏はデータの存在しない分野、人口知能の分析できない領域に挑戦することの意義を説く。それには人口知能の力を借りて、人口知能では分析できるが人間が行なってこなかった領域に踏み込むことも含まれる。

今後我々の生活は将棋の世界と同様、人口知能と共存していくことになる。そこで必要なのは人口知能を活用することによって人間の盲点を克服すること、人口知能の存在しない未知の領域に挑戦すること、この二つである。

羽生氏は棋士としてこの二つに挑戦しようとしている。

蛇足

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リーダーは誰にでもできる~『僕が「プロ経営者」になれた理由 変革のリーダーは「情熱×戦略」』樋口泰行氏

僕が「プロ経営者」になれた理由 変革のリーダーは「情熱×戦略」

 HPとコンパックの統合を実行し、危機のダイエーを活性化させ、マイクロソフト日本法人の変革をリードした。自分と組織の「殻の破りかた」(2016)

 

リーダーは誰でもできる

経営のプロや変革のリーダーというのは、特殊な存在ではない。本書を読んだ方が、「自分にもできるのではないか」と考え、一歩を踏み出すきっかけになってくれれば、著者としてこれほど嬉しいことはない。(228ページ)

誰もが実現できるリーダー論

日本もまた、この(環境変化のスピードが猛烈に早いという)マクロ状況のなかにあり、かつ(人口オーナス期という)転換期を迎えているなかで変革を担う新しいリーダーが1人でも多く育ってこなければ生き残ってはいけないだろう。・・・今求められているのは(突出した起業家のリーダー論ではなく)、マクロでもミクロでも構造的に起きている変化に対応するための基礎的なリテラシーとしてのリーダー論であり、誰もが共有して自身の資質として身につけなければならないリーダー論だからだ。・・・一連の経験から学んだのは、個々の従業員が変革のリーダーとしての自覚と資質を備えて環境の変化に向かい合わなければ、個人にも企業にも持続的な成長はもたらされないという確信だった。(54ページ)

経営リーダーの最終目標とは

(経営リーダーの最終目標は)「社員にめざすべき状態と、そのための具体的な仕事を用意し」「リーダーとしての素の姿を見せながら一緒に実現する」ことである。(110ページ)

会社は、1人ひとりが能力を発揮して「1+1」を2にとどまらず3や4にして豊かな暮らしを実現しようとする組織だ。(63ページ)

誰もができるリーダー論

変革期のリーダーとして最も求められる資質が「多」、つまり多様性、ダイバーシティだ。(64ページ)

なににフォーカスを当て、優先順位をいかにつけるかもリーダーの重要な資質になる。(76ページ)

人を動かすのは戦略や論理ではない。当たり前だが、一緒に歩んでくれると実感できるリーダーの心こそ人を動かすのだ。(116ページ)

自分自身で、TODOリストをつくり、そこに書き記された仕事(項目)を部下に託した場合、託したらすぐにリストから消せるようなマネジメント力を身につけてほしいのである。(77ページ)

 

僕が「プロ経営者」になれた理由

本書は普通のサラリーマンだった著者が、普通ではない経験を通じて得た経験による、普通の人に向けた“元“普通の人によるリーダー論、である。著者はリーダーの最終目標は「夢を与え、実績を創り出すこと」、と言う。そしてその最終目標は「情熱×戦略」を意識することで、誰でも達成できることになる。

創業オーナーは一から組織を作る。プロ経営者は出来上がった組織を運営する。だからこそ本書のリーダー論は極めて普遍的であり抽象化されている。

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リーダー何のために後ろを振り返えるのか?~『伸びる会社は「これ」をやらない!』安藤広大氏

 伸びる会社は「これ」をやらない!

  安藤氏は組織コンサルタント、「経営者が進んで現場に入り、現場の意見を吸い上げる」「こうした手法で、実際に組織の生産性や効率は上がらない(2017年)

リーダーとしての社長の間違い

社員から好かれるために、社員の要望にできるだけ耳を傾け、社員が喜ぶようなイベントをたくさん開きます。そして、1人ひとりの社員に寄り添い、それぞれの悩みを社長自らが聞いてあげるのです。・・・社長の言動による誤解や錯覚をもったまま仕事に励み、はからずも会社の成長の鈍化に「貢献」してしまっている社員も不幸であり、何より、会社が成長しなければ社長を含めて全員が不幸になるからです。(20ページ)

真のリーダーは未来にコミットする

リーダーは、その組織においていちばん高いところに位置しています。・・・リーダーがいちばん遠い距離まで見ることができるのです。見なければいけない立場であるともいえます。・・・リーダーは、どのメンバーよりも遠い未来を見る必要があるのです。(22ページ)

企業理念は全員が理解できない

会社の企業理念、ビジョンというものは、会社が向かう先を示しています。ということは、誰よりも高い位置にいて、企業理念を発信する立場の社長と、他の社員が同じレベルで企業理念を理解することは不可能ということになります。(60ページ)

リーダーは、「君は目の前の一つひとつの作業を終わらせることに集中してくれ。君の力が完成に最も貢献できるよう指示することに、私は責任を持つ」と伝え、メンバーが判断すべきでないところを判断するような状態を作ってはいけません。(63ページ)

リーダーは孤独

会社を目標達成に近づけようと思ったときは、社長は社内で孤独になるのが当たり前なのです。社長が社内で孤独にならないということは、「会社の機能がどこまかで不具合を起こしている可能性がある」ということです。社長も一人の人間です。この孤独に耐えることができずに、社内で寂しさを埋めようとしてしまうことがあります。・・・「よい社長」という言葉の心地よい響きにおぼれてしまった「ダメな社長」なのです。・・・会社を成長に導くのが社長の崔大の仕事です。そのために、社長は社内で孤独でなければなりません。(220ページ)

 

伸びる会社は「これ」をやらない

一言でいうとリーダーは孤独でなければ務まらない。リーダーの定義が他のメンバーの誰よりも遠い未来を見る者、であればリーダーのことをリーダーについてくるフォロアーはリーダーを100%理解できない。リーダーは前を見るのであって、フォロアーを見るために振り返り続けたら歩みは遅くなる。リーダーは相手を限定し、振り返る頻度を最小限度にしなければならない。歩みを止め、メンバーと話をすればリーダーの自己重要感は満たされるであろう。それがリーダーの群居衝動のためだとすれば意味がない。

蛇足

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会社の本質とは何か?~『リモートチームでうまくいく マネジメントの〝常識〟を変える新しいワークスタイル』倉貫 義人氏(2015)

リモートチームでうまくいく マネジメントの〝常識〟を変える新しいワークスタイル

オフィスに通勤しなくても働くことのできる「リモートワーク」。(2015)

 


会社やチームに所属する人たちでも、好きな場所に住んで、通勤しないでも働けるようなワークスタイルです。・・・リモートチームを取り入れることで、会社に所属することで得られる安定した仕事と、切磋琢磨しつつ助け合える仲間の存在、そして自分の好きな場所で働ける自由の両立を実現することができます。(はじめに、より)

セルフマネジメント~全員が管理職

リモートに限らず、チームとして高い生産性を発揮するためには、セルフマネジメントができるメンバーを揃えることが重要です。一から十まですべて指示して、逐一管理しなければならないのでは、経営にスピード感など出せるわけがありません。チームの目標を理解した上で、各自が自分で現場の判断を行うことができれば、おのずと生産性は高まります。(119ページ)

採用には時間とコストをかける

私たちの会社では、中途採用の場合、応募から採用まで半年ほどの期間をかけて選考を行います。「スキルがあるかどうか」といった判断もありますが、それに加えて「パーソナリティやカルチャーが合うかどうか」を確認するために時間をかけています。その選考の期間に何度か面談もしますが、それよりも「作文」を書いて貰って判断材料にします。・・・その人の人間性の本質を見るために、時間をかけても構わないので文章を書いてもらい、その内容で判断します。(117ページ)

リモートチームの社長の仕事とは

セルフマネジメントのチームで経営者やマネージャーが腕をふるうべきは、細かい作業や勤怠・進捗の管理などではなく、チームが目指す方向性やビジョン、価値観などを社員に伝えていくことです。・・・私たちの会社で取り組んでいるのは、社長である私自身が毎朝5分間の音声メッセージを録音してメンバーに配信することです。(129ページ)

会社の本質とは?

多くの日本人にとって「会社」というものをイメージするとき、オフィスを思い浮かべることでしょう。しかし、私たちにとっての会社とは、一緒に働く仲間であり、仲間とともにする仕事をすることをイメージするようになりました。・・・会社と聞いて思い浮かべられる仲間がいることこそが、本来の「会社」というものだったのではないか、と思えてきます。(207ページ)

 

リモートチームでうまくいく

リモートチームとは物理的な拠点に縛られないチームで仕事を進めることである。一人で独立しクラウドソーシングするのとは違い、あくまで会社=チームで進める。

「人は社会の中で生きる動物で、ずっと一人で働くというのは辛いものです。やはり誰かと一緒に協働していうことに楽しみを覚えるものです。」(おわりに、より)

そもそも会社とはチームを組むことでより効率よく仕事をするための仕組みである。一人で仕事に取り組むのには限界がある。チームを組むことで1+1=nが生じる。実際の会社がリモートチームを取り入れるには大きな変更が必要となる。倉貫氏は様々なITを駆使し、コミュニケーションにも工夫を凝らす。私はこの実例から会社の本質を改めて考えさせられた。会社はチームだから上手く行く。チームを支えるにはビジョンが必要である。チームのトップの役割はそのビジョンを具体化してさし示すことがその本質である。トップはそれを忘れて、日常に逃げ込んでいないか?本書は会社の原点に気づかさせてくれる。

蛇足

人間はチーム作業に喜びを見出す生き物である。

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誰も、組織を100%所有してはいけない~『 歴史からの発想―停滞と拘束からいかに脱するか 』堺屋太一氏(2004)

 歴史からの発想―停滞と拘束からいかに脱するか (日経ビジネス人文庫)

 堺屋氏は経済官僚出身の作家、中国史に学ぶ「勝てる組織」の作り方(単行は1983年、文庫は2004)

モンゴル帝国

モンゴル帝国の出現は、世界史上、おそらく最大の大事件であろう。この帝国は最盛期において史上最大の版図をもったばかりでなく、その支流は19世紀まで各地に残存したのである。(197ページ)

画期的な発想の結果として世界帝国が生まれたというよりも、むしろ世界帝国をつくろうという強い一貫した意思が、・・・(大量報復戦略、秘密警察、宗教の自由という)画期的発想を生んだのだということである。(221ページ)

明確な単一の目標~勝てる組織①

ジンギス・カンのモンゴルは「勝てる組織」の典型であることは、誰しも認めざるを得ないだろう。・・・そこから逆に「勝てる組織」の要件を考えると「明確な目的を持ち、構成員がそれをゆるぎなく信じている組織」だということになるだろう。・・・モンゴル帝国は、軍事的勝利という明確な単一の目的を持った組織だった。また、その目的を何よりも大事なものと、当時の蒙古人はゆるぎなく信じていた。(226ページ)

既成概念との闘い~勝てる組織②

組織の構成員が、明確な単一の目的をゆるぎなく信じるために最大の障害になるのは、既成の権威であり、常識的な概念である。したがって、「勝てる組織」をつくるには、その妨害となる既成の権威と常識的概念を構成員からいかにして取り除くかが重要な課題になる。(236ページ)

勝てる組織論~勝てる組織③

組織論は「(たとえばジンギス・カンの様な天才的リーダーである)人材に頼らず組織を強化するための学問」(ベルギーナ)である。・・・その第一は、いわゆる権威と権限の分離である。権威と機能は必ずしも一致しない。特に、技術や社会情勢の変化が著しい世の中ではそうでる。「権威は過去によってつくられるが、適性は絶え間なく未来に進む現在によって決まる」からだ。・・・(組織論的に観て)権威と権限の分離というのは、最も難しい分業だ。なぜなら、権威と持って権限を持たない、あるいは権限を持って権威をもたないということは、人間の本性に反するところがある。・・・「権威を欲せず権限に尽くす」-これをベルギーナは「匿名への情熱」と呼び、それこそが組織人の使命だとした。そして、それを掻き立てるように仕向けられる組織こそ、最上の組織だと言う。(244ページ)

組織のメンバーの目標

「組織の目的を達成することに幸福を感じる者だけが、よく組織を強化できる。それ故、強い組織は集団的な錯覚の中にこそある」(8ページ)

 

歴史からの発想

堺屋氏はモンゴル帝国が史上最高に成功した帝国であるという。モンゴル帝国は世界の東西を統合し、東西間の移動が容易になった。ジンギス・カンは天才であったが、それでは天才でなければ組織化はできないか?堺屋氏は権威と権限の分離が肝である、という。権威と権限が分離することによって組織の目的だけを追求することが可能となるという。それでは権威と権限を分離させるにはどうしたらいいのか?どうしたら権威が空洞化せず、権限は権威を要求ないで済む組織を設計できるのか?チンギス・ハンの様な天才に依存しない組織は機能しえるのか?残念ながらこの答えは一つではない。

蛇足

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